「でも、なんで変だって思うんだろうな。慣れってもんがあるにしても、瞬が氷河の声で話してたって、氷河が瞬の声で話してたって、それは別に悪いことじゃないはずなのにさ」 ここ数日間の疲れが出て ぐったりしていた星矢の中に、突然根本的な疑問が湧いてくる。 星矢以上に この事態にうんざりしていた紫龍は、疲れきっている仲間に両の肩をすくめてみせた。 「まあ、声というのは体格で決まるものだからな。口腔や鼻腔の容積とか声帯の大きさとか、あとは唇や舌の形状か。声の高低は声帯の大きさで決まる。瞬は小さくて細いから、声は当然高くなるし、氷河は瞬に比べれば体格がいいから、その分声帯も大きくて低い声を出すことができる。声というのは身体に付随したもので、今の氷河と瞬は、その自然の摂理に反した状態だから――」 「そんな御託はどうでもいいぜ。理屈はどうあれ、現実はこうなんだから」 紫龍お得意の薀蓄を、星矢は右手を大きく振って遮った。 星矢が知りたいのは、人間の発声の仕組みなどではなく、入れ替わった二人の声を珍妙かつ不快に感じる自分の感覚をどうにかすることはできないかということだったのだ。 「だから、その現実がありえないことだと言っているんだ。声は身体が作るものだ。氷河の声は氷河の身体にしか作ることはできないし、瞬の声は瞬の身体にしか作ることはできない。氷河と瞬の声が入れ替わることなど、生物学的・物理学的に――いや、自然科学的にありえないことなんだ」 “学問的にありえない”以前に、常識に反している。 苛立ったように、星矢は紫龍に煩悶した。 「じゃあ、この状況はいったいどういうことなんだよ!」 「まあ……奇跡が起こったとしか言いようがないな」 「奇跡ーっ !? 」 こんなことで“奇跡”にお出ましいただいては、“奇跡”に申し訳ない。 だが、この現実が、“奇跡”以外の言葉で表現できるものではないということもまた、厳然たる事実だった。 「そうだ。そして、奇跡を元に戻そうとしたら、それにはやはり もう一度奇跡の力が必要になるだろう」 「傍迷惑な奇跡だぜ……!」 これまで散々“奇跡”のお世話になってきたはずの星矢は、その恩義も忘れて、忌々しげに舌打ちをした。 |