氷河が目を開けると、そこには瞬の心配そうな顔があり、その後ろには見慣れた部屋の天井があった。
瞬の目が赤い。
どうやら瞬は、自分のしでかした不始末を悔やみ泣きながら、彼の仲間を彼の部屋にまで運んできたものらしい。
氷河が意識を取り戻したことに気付くと、瞬は、固く強張らせていた顔から少しだけ力を抜いた。

「ご……ごめんなさい、氷河。僕が、あんな時に悪い癖を出しちゃったばっかりに……」(←氷河の声)
「まあ、その甘さがおまえの味だから……。大丈夫、少し肩を打っただけだ」(←瞬の声)
「ほんとにごめんなさい……」(←氷河の声)

その唇に似つかわしくない声を発する瞬の姿など できるだけ見たくはないし、その声も聞きたくないと思っていたが、仲間の負傷に責任を感じてぽろぽろと涙を零す瞬は、やはり以前と変わらずに可愛らしい。
その気になれば氷河どころか黄金聖闘士をも簡単に倒せるであろう力を持った瞬に、天はどういう気まぐれで こんな心を与えたのか。
氷河は少し複雑な気持ちで、自分のために零れ落ちる瞬の涙を見詰めた。

「おまえの泣き虫は永遠に治らないのか」
わざと嘆息混じりに瞬に告げる。
瞬は小さく首を左右に振った。

その声がどうだろうと、瞬は瞬である。
強大な力を持つ この泣き虫が、氷河の好きになった瞬だった。
心底から、氷河はそう思った。
「大丈夫だ。泣くな」
「でも……」
「何てことはない。こんなこともできる」
瞬の涙を止めるために、氷河は枕元の椅子に腰掛けている瞬の腿の間に手を差し込んだ。

「氷河っ」
生来の声ではない声で非難してくる瞬の身体を、氷河は、怪我人のものとも思えない力で自分の下に引き込む。
そうしてから氷河は、自身の高まりを瞬の腿に押し付けて、自分が何を求めているのかを瞬に知らせたのだった。

「いいの……? 僕の声、氷河の声のままなのに」
氷河の怪我が深刻なものではないことには、瞬は安堵したらしい。
瞬は、それとは別の不安を瞳にたたえて、氷河に尋ねてきた――氷河の声で。
だが、その声も、今の氷河には(あまり)気にならなかった。

「大切なことを忘れていた。俺が好きなのは、おまえの声じゃなかった」
勝つために、自分の命を守るために、どうしても冷酷になりきれない 瞬の甘さ、割り切れなさを、じれったいと思うほどに心配で、心配しながら それこそが瞬の強さなのだと気付き、気付いた時にはもう 離れ難く感じていた。
声ごときのことで、離れられるわけがない。

「考えてみれば、おまえが風邪をひいて、ひどい声になった時も俺はおまえが好きなままだったし、よりにもよって俺の声で喋っている今のおまえも好きなままだし、たとえおまえが声を失うことがあっても、俺はおまえを好きでいるだろう。そんな簡単なことをなぜ忘れていられたのか――」
触れ合わずに過ごしてきた幾つかの夜を悔やむように、氷河は瞬の肌に唇を押しつけた。
瞬が、氷河の背に腕をまわしてくる。

「ん……っ」
それでもなるべく声を出さないように、瞬は氷河の愛撫に吐息だけで喘いでいたのである。
だが、ゆっくりと瞬の身体の中に忍び込み始めていたものが、突然忍耐の限界を超えたように勢いよく瞬の奥深くに突き立てられた時、瞬は自分を抑えきることができなくなって歓喜の声をあげてしまったのだった。

「あああ……っ!」
その時、身体を繋げたままで、二人はすべての動きを止めた。
肉体的に切羽詰ったこの場面で、二人がそんな状態になったのも当然のこと。
瞬の唇から洩れてきた声が、瞬の声だったのである

「瞬、おまえ、声が――」
そう言う氷河の声も、彼自身の声に戻っていた。
瞬の瞳がぱっと明るく輝く。
再び起こった奇跡に感激して、二人は互いを強く抱きしめようとした。
当然、氷河のものが瞬の身体の更に奥に入り込むことになり、瞬はその侵入のせいで喉と全身をのけぞらせた。
だが、もう何も耐える必要はない。
瞬は自分の言いたいことを、はっきりと言葉にした。

「氷河、もっときて……動いてっ!」
瞬に瞬の声でねだられるこの幸福、この感動。
氷河はもちろん張り切って、瞬の希望に沿ってやったのである。






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