「一緒にいるの、やめればいいだろうって言いそうになったぜ、俺!」 ラウンジを出た瞬の気配が廊下の端の階段にまで至ったのを確認してから、星矢は、苛立たしげな怒声を室内に響かせた。 「星矢」 そんな星矢を、紫龍がたしなめる。 この手のことに第三者が口を挟むのは――好き合っている者同士にくっつけと煽るならまだしも、別れる方向にけしかけるのは――往々にして良い結果を招かない。 そればかりは、当人たちが自らの意思で決めるのでなければならないことだった。 しかし星矢は、そんなことを気にかけるタイプの人間ではない。 彼は、自分が納得できないことや割り切れないことを そのままにしておくことに耐えられないのだ。 「だって、あんなの変じゃん。氷河が瞬に 星矢は、そこで一度 言葉を途切らせた。 あの二人の位置関係をどう表現すればいいのかを暫時悩んでから、 「人間としての出来が上等だろ」 と、言う。 「氷河もその方がいいだろ。完全フリーになれば、氷河も気兼ねなく、奴の見てくれだけ見てくれる奴等とお付き合いができるようになるんだし」 「瞬がそれを望んでいるかどうかを考えたのか、星矢、おまえ」 星矢の語る円満解決に、紫龍が静かな口調で、だが鋭い意見を差し挟んでくる。 途端に星矢は黙り込んだ。 瞬はそうなることを望んでいない。 それだけは星矢にもわかっていた。 そんな結果が許容できるのなら、そもそも瞬は自身を氷河に比して卑屈になったりはしないだろう。 あんなふうに変わってしまった氷河を、それでもなぜか瞬は以前と同じ気持ちで好きでいる。 星矢にはそれが不思議でならなかった。 「瞬に余計なことを言うのはやめなさいね。不要な波風を立てるだけだわ」 沙織も紫龍と同意見らしい。 どうやら星矢の怒りの矛先が自分に向けられるのを避けるために沈黙を守っていたらしい沙織は、星矢の言動にさすがに危機感を覚えたのか、いかにも渋々といった態度で忠告を入れてきた。 「でもさ! 氷河なんか、自分の外側飾るしか能のない馬鹿たれで、瞬は――瞬は、あんな馬鹿のどこがいいんだ」 星矢には、それは、不要どころか絶対に必要な一石であるように思えていた。 無論、星矢とて、氷河と瞬に決定的な決裂に至ってほしいと思っていたわけではない。 彼はただ、今の氷河の馬鹿さ加減が我慢ならなかったのである。 同じ馬鹿なら、昔のように、瞬ばかりを見ているせいで馬鹿な真似をする氷河の方が、彼はずっと好きだった。 が、今の氷河は、ただひたすら自分のことしか――それも目に見える部分しか――見ていないような気がして、星矢はそんな氷河の態度が不愉快でならなかったのである。 それが瞬の気持ちを無視した身勝手な意見ということはわかっていたので――なにしろ、瞬は、それでも氷河を好きでいるのだから――沙織から叱責が降ってくることを星矢は覚悟していたのだが、事態はそういうことにはならなかった。 星矢のその意見には、沙織も同感らしい。 「本当に……私もそう思うわ。氷河はどうしようもないお馬鹿さんよね」 「へ?」 飾り立てたカラスのような今の氷河を気に入っているはずの沙織から、思ってもいなかった賛同を得られた星矢は、キツネにつままれたような顔になった。 |