問題のないところに無理に問題を起こしているような氷河も氷河だが、自分たちの手には負えないと悟るや、男同士の閨房での問題を沙織に相談した星矢たちも星矢たちだった。
そして、その相談事を嫌な顔ひとつ見せずに聞き、その上 解決策を提示してきた沙織は さすがに女神というべきなのだろう。
彼女が考えた現状打破の方策は、しかも、なかなかの荒療治だった。
彼女は、彼女の聖闘士たちに、氷河と瞬を物理的に遠く引き離すことを提案してきたのである。

「偵察? おまえひとりでか?」
「うん。沙織さんがなんだか不穏な気配を感じるんだって」
「俺も行く」
当然の権利にして義務という顔で、氷河がきっぱりと断言する。
瞬は、だが、即座に首を横に振った。
「場所はオーストラリアだよ。今は真夏。暑い盛りだもの、氷河はすぐにバテちゃうでしょ。暑さにいちばん強いのは僕だし、僕ひとりで言ってくるよ。かなり不確かな情報らしいし、無駄足になる可能性も大きいみたいだから」

「オーストラリアだと !? 」
瞬が偵察のために派遣される場所の意外な名を聞いて、氷河はしばし呆けてしまったのである。
それは南半球最大の島にして、第三の大陸。
基本的に日本より西の地域でのみ闘いを展開してきたアテナの聖闘士たちには、ほとんど意識の外に存在する国の名だった。
そのオーストラリアで、アボリジニの神が聖域打倒を謳い出したとでもいうのだろうか。
たとえそれが事実だとしても、氷河は、コアラの聖闘士やカンガルーの聖闘士と本気で戦う気にはなれなかった。

が、だからといって、敵が潜んでいるかもしれない場所に――たとえ、その敵がコアラの聖闘士でも――瞬を一人で行かせるわけにはいかない。
「一緒に行くぞ」
氷河は再度、瞬と共に南半球に向かう意思を表明したのだが、それは瞬によって言下に拒絶された。
「足手まといになるから駄目。氷河は、氷河のせいで僕が危機に陥ってもいいっていうの」
「う……」
せめて2月のオーストラリアが冬だったなら――!
氷河は、南半球と北半球の季節の違いを憎み、更には、地球が丸いこと、太陽と地球の位置関係までをも憎んでしまったのである。


そんな氷河を日本に残し、翌日 瞬は単身オーストラリアに旅立っていった。
「沙織さんがいいホテルをとってくれた。のんびりしてこい」
「うん。氷河のこと、頼むね」
「安心してろ。おまえを追いかけていったりしないように、俺たちがしっかり見張ってっから」
心強い仲間たちの言葉に見送られ、聖衣ボックスの代わりに観光旅行者必携のガイドブック『地球の歩き方オーストラリア編』を持って、瞬はひとり 未知の大陸へと向かったのである。






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