「もう耐えられん。俺もオーストラリアに行くぞ!」 雪と氷の聖闘士が、仲間たちの前で断固とした決意を表明したのは、瞬がオーストラリアに旅立った翌日の朝だった。 つまり、瞬が日本にいなくなって半日後だった。 いくら何でもたった半日で『 「そんなに瞬と寝られな……いや、一緒にいられないのがつらいのか」 「当たりまえだっ!」 臆面もなく言い切る氷河に、ここを先途と紫龍が言い募る。 「そのつらさを耐えるのが愛というものなのではないのか。自らが痛みを感じるほど愛して初めて、それは真実の愛になるのだと、それはおまえ自身が言ったことだ。おまえがそのつらさに耐えることが、瞬への愛の証になるんだ」 紫龍はまさに鼻高々で言いたい放題だった。 奇天烈な理屈を振りかざして意味のない騒ぎを引き起こしていた氷河を、その主張を逆手にとることでやりこめられるのだから、これほど爽快なこともない。 だが、そんなことで たじろぐ氷河なら、彼は氷河でいることなど とうの昔にやめてしまっていただろう。 昨日までの自分の主張を綺麗さっぱり忘れた顔で、氷河は紫龍に反論してきた。 「これが愛の証だとっ! 馬鹿を言うな!」 「……」 氷河の身勝手な反駁に、紫龍はいっそ すがすがしいほどの敗北感を抱いてしまったのである。 ここまで首尾一貫していない言動を平気でしてのける氷河という男に、紫龍はもはや勝ちたいとも思わなかった。 戦意を失い言葉を失った紫龍に代わって、氷河を 彼女は、感情というものを全く感じさせない威厳に満ちた口調で、彼女の聖闘士に告げた。 「その通りよ。瞬の足手まといになって、瞬を危地に追い込むようなことをしたくなかったら、今のあなたが瞬のためにできることは、日本で瞬の無事を祈っていることだけよ」 「う……」 アテナにそう言われてしまっては、氷河もそれ以上 わめきたてることはできなくなる。 なにしろアテナが氷河の愛の実践を認めてくれないということは、氷河の渡豪費用を出してくれるスポンサーが存在しないということなのだ。 瞬への愛を証明するために太平洋を泳ぎきることはともかく、赤道直下の暑さに耐え抜く自信が 氷河にはなかったのである。 氷河がアテナの前で沈黙することを余儀なくされていたその頃、瞬は、8時間の長旅に疲れた様子もなくケアンズ空港から直行したワイルドワールドで、本物のコアラを抱いて歓声をあげていた。 |