瞬の記憶の中で、同じ問いを、瞬が氷河に投げかけていた。
ハーデスと瞬が深い思惟と共に発した問いかけに、氷河が軽々と笑って頷き返してくる。
「見ていられるさ。おまえだけを見ていればいいんだ」
「僕はそんな大層なものじゃないよ。弱くて迷ってばかりで――」
「そうか?」
「そうだよ」
「そう言い切れるところが、おまえが光たるゆえんだ」
「自分が弱いなんて、卑怯者なら誰でも言うでしょう」
「おまえは弱くない。とても甘いだけだ」
「……」
まるで褒められている気がしない。
瞬は僅かに唇を引き結んだ。

その唇の機嫌をとるように、笑みの形を作った氷河の唇が 瞬のそれに近付いてくる。
「おまえが俺の光だ。俺がそう信じているんだから、俺にとってはそれが真実だ」
「客観的にものを見ようとは思わないの。自分の主観の判断だけを信じるのは危険だよ」
「客観的に見てもそう思う。いくらおまえにベタ惚れてるからって、俺はそこまで馬鹿じゃないぞ」
「僕が本当にそういうものなのなら嬉しいけど――」

だが本当に一人の人間がそういうものであり得るわけがない。
瞬は、自分が氷河に買いかぶられているのだとしか思えなかった。
光というのなら、瞬にとっての氷河もそうだった。瞬の仲間たちは皆 そうだった。
それでも瞬は知っていたのである。
彼等が輝いて見えるのは、彼等の光の部分が強すぎて、彼等の中にある闇がその輝きにかき消されているだけなのだということを。
なにより、瞬自身がそうだった。
自分自身の光に惑わされない分、瞬には自らの闇の部分――罪の蓄積がはっきりと見えていたのだ。
そこから目を逸らそうとは思わない。

「あ……っ」
ふいに、瞬の思考が中断される。
瞬は、氷河の前に大きく身体を開かされていた。
氷河の息が、荒く深い。
瞬は氷河の背に腕をまわし、その拳で彼の髪の一房を握りしめた。
氷河が、彼の神と呼び光と呼ぶものを貫いてくる。
「……っ!」
瞬は息を呑んで、その熱いものを受けとめた。
彼の光、神とさえ呼ぶものの中に 肉体の欲を伴って入り込んでくる氷河が傲慢なのか、あるいはその行為もまた光への愛なのか――それは瞬にはわからなかった。
だが同時に、自分は氷河の前でそういうものでありたいとも、瞬は思ったのである。

神が人間に必要なものなのではなく、人間に必要なものが神なのだ。
「あっ……あっ……ああっ!」
背にまわした腕が振りほどかれそうなほど、幾度も激しく氷河が瞬の身体を突いてくる。
悲鳴と歓喜、身体中を駆け巡る血と 己れのすべてを氷河に任せても恐くないと感じる心。
他に必要なものなどあるだろうかと、この時に瞬はいつも思う――。






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