「そなたたちの神は、これからは神の力に頼らず、どんな苦難も災厄も 人の叡智だけで乗り越えていくようにと、この国の民にはそれができると、そなたたちへの信頼を示してくれた。そのために王家の犠牲は二度と求めぬと言ってな。これまで多くの犠牲を払ってきた王家の滅ぶことを神は望んでいないとも言っていた。その誓約の証人として、神は異国人である我等をこの国に呼び寄せたものだったらしい。この国の呪縛から解き放たれるために、シュンはこの国を離れた方がよいだろうと、これも そなたたちの神の言葉だ」 シリュウの嘘八百に、最初、国の長老たちはかなりの戸惑いを見せた。 が、シリュウの言葉が虚言であるはずがない。 現に、シュンは彼等の前に生きて立っている。 神が望んだものを、人間が取り戻せるはずがないのだ。 『人間が神に勝てるはずがない』という彼等の思い込みが、シリュウの偽神託を彼等に受け入れさせ、シュンは生まれた国の外に出ることを許されることになったのである。 それは、神の優越を利用した シリュウの狡猾に、ヒョウガは今回ばかりは素直に感謝の意を示したのである。 「偽の神託をでっちあげる俺も大概だが、おまえもセイヤもハーデスが恐ろしくはないのか。相手は死の国の王、死そのものなんだぞ。人間はいつか必ず、あの神の世話になる」 ヒョウガの謝意は受け入れつつ それでも呆れたように尋ねてくる仲間に、ヒョウガは――生きることに輝きまくっている男は――、一瞬のためらいも見せずに答えてきた。 「生きているうちは死を怖れても何にもならないし、死んでしまったら、俺自身が死そのものになる。自分自身を怖れる必要はないじゃないか」 ヒョウガの死生観は、生きることにも死ぬことにも実に前向きなものだった。 「俺は、シュンに嫌われることの方が、100万回死ぬことの1000万倍も恐ろしいぞ」 その恋愛観は、前向きなのか後ろ向きなのか、今ひとつ判断しきれないものだったが。 |