傷付き疲れた人の心を癒す仕事――ホストの仕事とはそういうものだと認識しているらしい瞬に、氷河はその仕事を辞めろということはできなかった。 だが、仮にもアテナの聖闘士に、ホストなどという軟弱な仕事を続けさせるわけにもいかない。 氷河はとりあえず、瞬の勤め先に赴き、様子を伺い、できれば雇用主に瞬を解雇させることを考えた。 そういうわけで、氷河は、歓楽街として全国に名高いS宿K町に足を踏み入れることになったのである。 「この店か」 瞬の勤め先は、けばけばしいネオンのまたたく通りからは少し外れたところにある、いかにもブルジョア趣味の建物だった。 店の前に停まったリムジンから次々に降り立つ派手なドレスを着た女たちの姿を見る限りでは、“場末”という印象は全く受けない。 が、氷河にしてみれば、それが胡散臭い店であることに変わりはなかった。 「行くぞ」 「おい、氷河!」 ホストクラブ“サンクチュアリ”に踏み込もうとする氷河を、星矢が慌てて引き止める。 ほとんど乗りでここまでついてきた星矢は、少々――否、かなり――不安そうな顔をしていた。 「素朴な疑問なんだけど、ホストクラブって男が入っていいものなのか?」 「ん? ああ、そうか。男が入るのは問題ないが、お子様が入るのはマズいな。星矢、おまえはここで待ってろ」 「なんでだよー! 俺もホストクラブっての見てみたいぞー」 星矢も実は、ホストクラブなるものに、興味津々ではあったのである。 瞬が入ることを許された場所に自分が足を踏み入れることができないという事実は、星矢には癪の種でもあった。 「俺と紫龍なら20歳過ぎで通るが、おまえは無理だろう」 「うー……」 『20歳過ぎで通る』のではなく、見るからに善良な市民ではない金髪男と長髪男に 誰も恐くて歳を聞けないだけだろう――と、星矢は内心で氷河に噛みついていた。 が、事実は確かにそうなのである。 星矢は外見だけなら、ごく普通の歳相応の少年であり、この場では それは不利でしかない。 不満そうに口をとがらせた星矢が、店の入り口の脇に視線を逸らす。 そこで星矢はとんでもないものを見ることになってしまったのである。 「氷河、紫龍、これ……」 そこには写真館のウインドーのようなコーナーがあって、仰々しい額縁に収められたホストのポートレイトが10枚ほど飾ってあった。 その中央には、『当店ナンバー1』のプレート付きの瞬のどアップ写真――。 にっこりと微笑む瞬の写真を見た途端に、氷河はその顔面をさーっと青ざめさせることになったのである。 そして、その写真は、星矢に固い決意を促すことになった。 「俺も絶対入るっ。入るからなっ!」 こうなると星矢の意思を覆させることは困難である。 かくして、アテナの聖闘士たちは3人揃って 瞬の“聖域”に乗り込むことになったのだった。――が。 綺麗ではあるが 当然の帰結として、氷河たちの入店は、ホストクラブ“サンクチュアリ”の人々に、“他店のホストの殴り込み”と認識されてしまったのである。 |