イノチガケの戦いを戦い抜いて――それは、命を賭けることの代償として十分すぎるほどに気持ちのよいことではあった――迎えた翌日。
新しい日には新しい戦いを実践しようと言い張る氷河の主張に負けたせいで、その日 瞬が自室を出たのは、既に10時をまわった頃だった。
イノチガケの戦いに大いに満足したらしい氷河と共に階下におりていった瞬は、そこで血相を変えて城戸邸の玄関を出ていこうとしている紫龍に出会ったのである。

「紫龍、何かあったの?」
昨日に引き続き今日もまた敵襲があったにしては、紫龍は聖衣を身に着けていない。
それ以前に、今日のアテナの私邸は、昨日と打って変わって平穏そのもの。そして、静かだった。
「星矢が――」
「星矢がどうかしたの」
「それが……」

紫龍が言うには――ほぼ1時間ほど前に一人で城戸邸を出ていった星矢から、つい先程エマージェンシーコールがあったらしい。
その知らせを受けて、紫龍は急遽星矢の許に駆けつけようとしているところなのだそうだった。
電話を受けたメイドに、星矢は相手も確かめず、
『俺はこれからイノチガケのバトルに挑む。万一の時は、せめて俺の骨を拾ってくれ』
とだけ告げて、それきり電話は切れてしまったらしい。

「イノチガケのバトル……?」
瞬は、昨日城戸邸を襲撃してきた敵と、その中のただ一人にも とどめをささなかった自分自身を ふいに思い出した。
瞬の意図を汲んで、彼の仲間たちも敵の命を奪うようなことはしなかったはずである。
もしかしたら、それがあだになったのかもしれない――と考えて、瞬はその頬を青ざめさせることになったのである。
――が。






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