瞬が翌日から氷河との授業内容を星矢に語り始めたのは、一度は相談を持ちかけた仲間への経過報告義務を感じてのことだったかもしれない。
義務感にかられてのことにしては、瞬の口調は上擦るほどに浮かれていたが。
「でね、でね。抱きしめ合ってる時も、ただ抱きしめ合って動かずにいると 段々居心地が悪くなってくるの。だから、腕の位置を変えたり、身体の角度を変えたり、手を動かして あちこち愛撫したりしてると、楽しくなってくるんだ。あ、もちろん、触るのは服の上からだよ」
「へー」

瞬の報告内容は積極的に聞きたい類のものではなかったのだが、数日振りに見る瞬の屈託のない明るい笑顔は、星矢の心を安んじさせた。
星矢はあくまでも 瞬が報告してくる氷河と瞬のやりとりの内容ではなく、瞬の笑顔に対して笑顔を返したのである。
しかし、瞬は、星矢が自分の報告を聞いて喜んでくれたのだと誤解した――ようだった。

世の中には不幸自慢をしたがる人間というものもそれなりに存在するらしいが、大抵の人間は物事がうまくいっていない時には口数が減り、物事が順調に進んでいる時には、心が軽くなるに比例して口の方も軽くなるものである。
そして、今、瞬の船は順風満帆で広い大海原に滑り出したところなのである。
『走り出したら、もう止められない』と、アニソンの女王も歌っているではないか。
今の瞬がまさにそれだった。

1時間目・2時間目の氷河の授業内容を笑顔で聞いてしまったのが、星矢の運の尽き。
瞬は、3日目にも氷河との授業内容を、星矢に意気込んでレポート提出し、その報告内容は、当然のことながら、前日のそれよりも更にレベルアップしていた。
「夕べはね、服の上から触れられるのが平気なら、肌に直接触れるのも平気だろうって言ってね、ちょっとだけ……あの、服は着けたままで、手だけ服の内側に入れて触るっていうのをやってみたんだ」
「へ……」

次いで、4日目。
「夕べはね、立ったまま抱き合ったり、椅子に座って抱き合ったりするのが平気なら、横になって身体を重ねても大丈夫だろうって、氷河が言うから、試してみたんだ。氷河の言う通り、平気だったよ」
「おい、瞬!」

更に、5日目。
「星矢、星矢。僕、昨日、氷河の前で、着てるもの全部脱いじゃった!」
「あの、だから、瞬……」

そして、6日目。
「星矢、星矢。僕、夕べから今朝までずっと、氷河と一緒のベッドで眠ってたんだよ。すごいでしょ。裸でだよ!」
「瞬……」
そろそろ星矢の頬は青ざめて始めていた。

その上、7日目。
「星矢、星矢。僕ね、昨日、どうして男にも乳首があるのかわかっちゃった」
「そ……それは……」
星矢はそんなことはわかりたくなかった。
というより、そんなことがわかってどういう益があるのかが、星矢にはわからなかった。

8日目。
「星矢、星矢。僕、昨日、氷河に足の指にキスされちゃった。1本1本全部だよ。くすぐったいのに、すごく気持ちいいの。足ってセイカンタイなんだって」
「おい……」
勉強熱心なのは、よいことだと思う。

9日目。
「僕、腿にキスされるなんて、初めて。なんだかすごく焦れったいっていうか、もどかしい気持ちになったよ」
「瞬、頼むから――」
しかし、採点する教師でも何でもない第三者にまで その勤勉振りを訴えて何になるというのか。

10日目。
「氷河は、好きなら何でもないことだって言ってたけど、でも、あんなもの舐めたって、おいしくないよねぇ……。僕は気持ちよかったけど」
「あんなもの……って……」
いったい氷河が瞬の何を舐めたのか、絶対に言わないでくれと、星矢は胸中で叫んでいた。

11日目。
「氷河が僕の中に指を入れてきたの。そしたら、なんだか僕すごくおかしな気分になって、勝手に腰が浮いてきちゃって……。氷河は、そうするのは絶対に必要なことだって言ってたんだけど、ほんとにそうだと思う?」
「……」
そんなことを訊かれても、星矢には答えようがない。
というより、星矢はとうの昔に忍耐の限界に達していた。

「おまえらの授業の経過報告はもういいーっっ !! 」
さすがに耐えきれなくなった星矢が怒声を響かせたのは、瞬の11日目の授業報告の直後だった。






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