星矢はまだ、床をごろごろと転がっている。
そんな星矢を助け起こすことは余計な世話だと承知している紫龍は、そうする代わりに、もう一人の当事者であるところの氷河に向き直った。
そして、彼に祝辞を述べた。
「大願成就というところか」

部屋の壁に背をもたせかけて、転がっている星矢ではなく瞬を見詰めていた氷河は、それには何も答えなかった。
頷くことさえしない氷河が、しかし、現状に大いに満足していることは、視力に問題ありの紫龍にも明確に見てとれた。
今の氷河は、これまでの苦労も、その苦労が報われたことも、わざわざ言葉にする気にもならないほど、この結果に満足しているのだ。

「瞬は結局、何を恐がっていたんだ」
「瞬は、意味と理由を求めていたんだ。それがわからなかったから不安だったらしい」
紫龍の質問に答えるためというより、自分自身の考えを整理するために、氷河はそれをわざわ・・・ざ言葉・・・にした・・・ようだった。
「意味と理由、ね」
『なぜ自分は闘うのか』という疑問に、まさに闘いの最中に囚われる瞬ならば、この手のことに理由を求めることもあるかもしれない。
同性同士のそれならば なおさら、瞬がその行為に意味を求めたがるのも道理だろう。

「で、おまえは、アレに どういう意味があると言って瞬を丸め込んだんだ」
「人聞きの悪いことを言うな。俺は、あれが俺も瞬も楽しめる行為だということを証明してやっただけだ。そして、二人共が楽しめなければ意味のないことでもあると教えてやったんだ」
「逆説論法でいったわけか。瞬はそれで納得したのか」
「納得せずにはいられないほど、いい気持ちにしてやったさ」
「ほう」

その自信の根拠を尋ねたが最後、床で転げまわるのは、星矢ひとりだけではなくなるだろう。
自らの髪で床掃除をする気はなかった紫龍は、もちろん沈黙を守った。






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