「ああ……っ!」 どれほど頑なで清らかな処女でも、瞬は、最後には俺の愛撫に屈する。 それが乱暴で性急な愛撫でも、焦らすように意地の悪い愛撫でも、愛撫を重ねていれば、瞬の身体はやがて身体の内から生まれてくる疼きに耐え切れなくなって、腰を浮かせ、俺に身体を押しつけ俺にすがることになる。 その直前までの――俺の愛撫に屈するまいと耐えているような瞬の表情が、俺は好きだった。 屈した瞬間の瞬も、その後 もはや俺の言いなりになるしかないと悟ったあとの瞬も、もちろん好きだったが。 ――俺は、要するに、瞬の何もかもが好きだった。どんな時の瞬も好きだった。 以前の仲間たちと瞬との決定的な違い。 それは、瞬の主人であるはずの俺が、俺の そして、俺こそが瞬の だというのに、俺は、自分のそんな思いを瞬に知らせることもできないんだ。 そんなことを知らされてしまったら、俺の望みを叶えることを無上の喜びにしている瞬は当惑するだけだろうから。 「それじゃ駄目だと教えただろう。もう100年も前に」 固く脚を閉じ身体の悶えを必死に隠そうとしている瞬に、俺は、意地悪な主人を装って、揶揄するように告げる。 瞬は羞恥に泣きながら、俺の前でゆっくりと膝を立て、脚を開いた。 よほど耐えていたのだろう、俺が中に入っていくと、瞬はすぐに自分の腰を突き上げて、俺を更に奥に引き込もうとした。 「自分から動くな。浅ましい」 俺には、多分にサディストの気があるに違いない。 あるいは、俺は、俺の思い通りにならない恋への苛立ちを、瞬をいたぶることで解消しようとしているのかもしれなかった。 「あ……」 それでも瞬は、そんな俺の言うことを聞く。 自然に浮きあがっていく腰を無理にシーツの上に引き戻して、身体の奥の疼きに耐え、息を殺して、何をしても浅ましいことにならない俺が浅ましいことをする時を、瞬は待つんだ。 瞬の中に収まった俺が動かずにいると、身の疼きに耐えかねた瞬は、やがて気が狂ったように顔を左右に振って、ベッドの上に髪を乱し始めた。 「お願い、氷河、お願い……。意地悪しないで、動いて……あっ……あっ……あああ……!」 瞬が、絶望的な悲鳴をあげる。 それでも、瞬は俺の命令には逆らわない。 苦しそうに眉根を寄せ、喉をのけぞらせ、全身をのけぞらせ、それでも俺の気に入らないことはするまいとして、強靭な意思の力で自分の身体を制し続ける。 とはいえ、俺の意に従おうとする瞬の意思がどれほど強固でも、瞬は自身の身体の内部までは制御しきれない。 瞬の身体の内側では、煮えたぎるように熱い血が狂ったように駆け巡っていた。 逆流するような、瞬の血肉のうねりが俺を刺激してくる。 その刺激に耐えられなくなり、俺は瞬の望みを叶えてやらざるを得なくなった。 瞬の細い脚を脇に抱えるように持ち上げ、既に瞬の中に入り込んでいたものを、瞬のやわらかい肉を押し開くようにして、更に深いところまで突き刺す。 途端に瞬は歓喜の声をあげ、俺の背にしがみつこうとして両の腕を伸ばしてきた。 もっとも、その腕は俺の激しい律動のせいで簡単に振りほどかれてしまったが。 行き場を見失った両の腕を、瞬は、自分の顔の上で交差させて顔を隠し、その唇からあられもない声を洩らし始めた。 「ああ……い……い……いや、もっと、いや……ああ……!」 瞬は、いつも、『いい』の代わりに『いや』と言う。 喘ぎが嗚咽になり、それが悲鳴になっても、瞬は、『いや』だと俺に訴え続ける。 どうして正直に『いい』と言ってしまえないのか、あるいは、達し終わってしまうことが『いや』なのかと、瞬のその癖を意地悪く解釈していた時期もある。 今ではそれこそが、肉体を俺に支配されてしまっている瞬の本当の意思であり、最後の抵抗なのだと、俺は思うようになっていたが。 おそらく瞬は、本当に『いや』なんだ。 好きでもない男を好きだと思い込まされ、その男に我が身を犯されることが。 俺に身体を支配され、我を失っている時にだけ、瞬は正直になれるんだろう。 『いやだ』と幾度も叫びながら、瞬は、瞬の忍耐の限界を超えてしまっていた。 瞬はとうに達していた。 俗に言う“いく”地点を、とうに通り過ぎていた。 瞬の身体は痙攣し、その身の内の肉だけが勝手に意思をもって、それでもなお俺を刺激し続けてくる。 瞬がいってしまったあとで、俺が瞬の中に俺の欲望を吐き出すことに あまり意味はない。 それは、俺と瞬の交わりの後にやってくる付属の行為にすぎない――いや、行為というより、それはただの現象に過ぎなかった。 俺の心身の快楽は、俺によって瞬が達した時に極められる。 それで俺の目的は達せられるんだ。 俺は、俺の身体の充足など欲していない。 瞬が性的な絶頂感に達してくれさえすればいい。 俺は本心から――心底から、そう思っている。 それほどに、俺の心を支配しているのは瞬だった。 なのに、瞬自身は俺の言いなりで――。 この世に、これ以上の苦しみがあるだろうか。 |