二人で暮らしていたマンションの部屋に、瞬の姿はなかった。 突然姿を消してしまった俺を、瞬は捜しているに違いない。 まるで思春期の子供が書いたような あのラブレターを最後まで読んだのなら、瞬は自分の命に不安は抱いていないかもしれないが――いや、もう安心していられる時期は過ぎているだろう。 俺が瞬に最後に血を与えてから、1ヶ月が過ぎようとしている。 瞬のあのやわらかく温かだった肌が、陶器のように硬くなり、ひび割れ始めるのも時間の問題だった。 俺は、気が狂ったように瞬を捜し始め、瞬を捜し続けた――それから1ヶ月間。 もともと瞬は線の細い人間だった。 俺は、瞬の命が心配で、半月に一度は瞬に血を与えていた。 瞬の身体は、俺の血なしで1ヶ月もつのかどうかさえ怪しいほど、頼りないものなんだ。 だというのに2ヶ月。2ヶ月間、俺は瞬と触れ合うことができなかった。 それだけの時間が過ぎてから俺はやっと、俺の恋は二度と取り戻すことができないものになってしまったのだということを認めることをした。 おそらく、瞬は、俺が日本に戻ってきた時にはもう消えてしまっていたのだろう。 他に考えようはない。 200年も生きてきたのに、100年も一緒にいたのに、俺は瞬にとって遅すぎた人間にしかなれなかったんだ。 ――絶望と共に、俺はもう一度ロシアに戻った。 瞬への未練のない今の俺なら、氷の海は俺を受け入れてくれるだろう。 否、俺の身体は海という名の眠りを受け入れるだろう。 そう考えて。 すべてを諦めて、俺は再び母の眠る氷の海に向かった。 |