足をふらつかせながら図書室を出て自室に戻ろうとした瞬は、そこで氷河に腕を掴まれた。 どうやら彼は、瞬が図書室での用を済ませて出てくるのをドアの外で待ち伏せていたらしい。 瞬の肩を廊下の壁に押しつけて、前置きもなく彼は瞬に尋ねてきた。 「夕べの急用というのは何だったんだ」 「あ……えと、あの、ネットオークションの最終日だったの。絶版になってて、でも、どうしても欲しい本があって……その本の」 「落札できたのか?」 「う……ううん」 「今日はもうないんだろう?」 「あ、今日も……今夜も、別の本のオークション最終日で――」 情報過多による混乱のために 習得したい情報の習得は成らなかったが、インターネットは瞬に氷河の誘いを断る方便を一つ教えてくれていた。 この言い逃れで、あと数日の猶予を氷河に要求できると、瞬は考えていた。 その間に少しでも その手の知識を身につけて事に及べば、(もしかしたら)事実を氷河に知られずに済む――かもしれない――と。 しかし、瞬の方便は氷河には全く通じなかったのである。 「おまえの欲しい本は、俺が責任をもって手に入れてやる。だから、今夜は俺の相手をしろ」 「あ……」 瞬の勉強はまだ終わっていない。 終わっていないどころか 取り掛かったばかりである。 しかし、昨夜、あんなふうに氷河の許から逃げ出しておいて、今夜もまた彼を拒んだら、氷河にどう思われることか――。 そんなことをしてしまったら、初心者だということがばれる前に、氷河に愛想を尽かされてしまうかもしれない。 その上、瞬の目の前には、氷河のあの青い瞳が 刺すような輝きを呈して迫ってきていた。 「は……はい……」 大いなる不安に押しつぶされそうになりながら、それでも結局 瞬は彼を拒み切ることができなかったのである。 |