「瞬、花火やるぞ、花火ー!」
夏は星矢の季節である。
そして、夏には必ずしておかなければならないイベントというものが数多くあり、季節の覇者である星矢は、毎年それらのすべてを怠ることがなかった。

巨大杏仁豆腐とスイカが子供たちに好評を博した日から数日後の夜。
星矢に声をかけられた瞬が ラウンジから続くテラスに出ると、そこでは既に準備万端整えた星矢が仲間の登場を待っていた。
紫龍が、その脇に水の入ったバケツを運んできている。
笑って庭に下りかけた瞬は、そこに氷河の姿がないことに気付いて、星矢に尋ねたのである。
「氷河は?」
「あいつ、こーゆーお子様の遊びには興味ないんじゃねーの? 最近、あいつ面白くないんだよな。どんぱちやってりゃ、興味あるなら、そのうち出てくるだろ」

星矢の返答はいやに素っ気ない。
最近の氷河は、確かにこういうイベントに進んで参加したがるふうをしてはいないが、誘ってみないことには、氷河の興味のあるなしなど わかるはずがない。
興味があっても誘われなければ出てきにくいということもあるだろう。

「僕、声かけてくる」
庭に下ろしかけていた足の向きを変え、瞬は氷河の部屋に向かおうとした。
が、先ほどの星矢の大声は氷河の耳にも届いていたらしい。
瞬が星矢たちに背を向けるのとほぼ同じタイミングで、氷河の姿がイベント会場に現われてくれたのである。
瞬はほっと安堵した。
その弾みで、テラスとラウンジの境の段差に爪先を取られ、その場に転びかける。
床とお見合いをしかけた瞬の身体を、氷河が素早く抱きとめてくれた。
「あ、ごめんなさい。ありがとう」
瞬の謝罪と礼に、氷河は無言で頷くばかりである。
それでも瞬は、彼がここに来てくれたことが嬉しかった。
「今、氷河を呼びに行こうとしたとこだったんだ」

瞬と二人で庭に下りてきた氷河の姿を認めて、星矢がふてくさったようにぼやく。
「おまえ、こんなのに興味あんの」
氷河は縦にとも横にともなく首を振り、星矢は彼の手応えのない反応に、更に顔をしかめた。






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