瞬はもともと順応性に秀でている。
氷河のかもしだす“何か妙な感じ”にも、徐々に慣れていった。
逆に星矢は、氷河に子供扱いされているという被害妄想が日を追うごとに大きくなっていくらしく、最近では氷河と顔を合わせるだけで唇をとがらせるようになっていた。
そういう経緯で、この頃の瞬は、すっかり星矢のなだめ役になってしまっていたのである。

「氷河って、つまりあれでしょ。クールなの」
「クールーっ !? 」
星矢が素頓狂な声をあげ、
「それは、氷河に最も縁遠い言葉だと思うが」
紫龍もまた、星矢の奇声に同意する。
「そうかな?」
瞬だけが首をかしげ、首をかしげる瞬が、星矢たちには理解できなかったのである。
しかし彼等は、自分たちと瞬との認識の相違の原因に間もなく思い至った。

瞬は知らない――見ていないのだ。
天蠍宮で、その腕に瞬を押し抱き、だらだらと感動の涙を流しまくっていた某白鳥座の聖闘士の奇天烈極まりない姿を。
あれ・・を見た人間と見ていない人間との間で、氷河という男の人物評が大きく異なるのは当然のことなのだ。

星矢と紫龍の二人が――二人だけが――納得しかけたところに、ちょうど話題の主がやってくる。
星矢はほとんど馬鹿にしたような声音で、白鳥座の聖闘士に向かってがなり声を投げつけた。
「氷河ー。瞬が、おまえがクールだとか何とか ありえないこと言ってるぞー」
「そうか」
今日も氷河は反応が薄い。
怒っているのか笑っているのかと問われれば、笑っている部類の表情なのだが、あらゆることを白か黒か、1か0かに分類していたい星矢には、それはどうにも気分のよくない代物だった。
星矢を喜ばせる反応の一つも見せず、テーブルに置いてあった雑誌を手に取ると、氷河はそのままラウンジを出ていってしまった。

「まあ、最近の奴は確かにクールに見えないこともない」
紫龍が、氷河の姿の消えたラウンジで低く呟く。
「表情が冷たくない分、かえって余裕があるように見えるわけだ」
「うん、そうだよね。確かに以前とは少し変わったけど、氷河は氷河だよ」
瞬も、紫龍に同意して頷く。
しかし、星矢は、その“少しの変化”がどうにも納得できないのだった。






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