「でも、絶対にクールなんかじゃないはずだぞ、氷河は!」
あくまでも氷河の肩を持ちたがる瞬がいなくなると、膝の上に置いたクッションに拳を叩きつけて、星矢は再度その場に大声を響かせた。

紫龍が、そんな星矢の前で大袈裟な長大息をつく。
「その決めつけもどうかと思うが……。人間は変わるものだ。奴は、十二宮の戦いでは恩師を亡くしているし、クールはともかくニヒルになる要因はあったわけだからな」
「変わんねーよ!」
星矢が、言下に紫龍の意見を却下する。

「考えてもみろよ! 氷河がしてることって、基本的には、奴が“クール”になる前と何にも変わってねーだろ。瞬の荷物持ってやって、瞬にちょっかい出す奴撃退して、瞬が転びかけたら抱き止めてやって、つまりは瞬の太鼓持ち!」
「それを言うなら、腰巾着、もしくは金魚のフンだろう」
「そうとも言うけど、氷河はただ口数が少なくなって、泣かなくなっただけなんだよ。表情が乏しくなっただけ! 奴は絶対クールになんかなってない!」
「言われてみれば……」
確かに、氷河のしていることは以前の彼の行動と何も変わっていなかった。
彼はただ、それを無言無表情で行なうようになっただけなのだ。

「氷河は絶対クールなんかじゃない。ガキの頃、ちょっとマーマのことからかったら、奴は地の果てまで俺を追いかけてきたんだぜ! 俺はあの馬鹿に追い詰められて、城戸邸の庭の木の上から3時間も下りられなかったんだ。真冬にだぞ! 三つ子の魂百までだよ!」
「おまえ、実は意外に根に持つタイプだったんだな」

そういえばそんなこともあったと、紫龍はラウンジの窓から、幼い星矢が真冬に3時間を過ごした大きな楡の木を、懐かしく眺めることになったのである。
同じ木の下で、別の季節に違うやりとりがあったような気がした。






【next】