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「やった、瞬! 同じクラスー!」
初めて足を踏み入れた教室に、見慣れた幼馴染みの姿を見付け、瞬はほっと安堵の息を洩らした。
自席で立ち上がり右手を大きく振りまわして新しいクラスメイトを歓迎してみせる星矢に、瞬を教室に連れてきた担任が、意外そうに僅かに片眉をあげる。

「知り合いか? なんでおまえみたいな粗忽者がこんな子と友だちなんだ」
その言葉を言い終える直前に、彼は自分の失言に気付いた。
担任として、彼は自分の教え子である星矢の家庭環境も、転校生のそれも承知していた。
その二人が顔見知りということになれば、そのあたりの事情は自ずから知れる――のだ。

「先生、瞬の席、俺の隣りでいいよな?」
粗忽者の星矢は、その失言が聞こえなかった振りをして、彼よりも粗忽な担任に尋ねた。
星矢の隣りの席は空いている。
まだ若い担任教師は、星矢の声で はっと我にかえり、慌てて頷いた。
「あ……ああ。背も同じくらいだし、転校してきたばかりだから、顔見知りの側の方がいいだろう」
「うん。瞬、ここ、ここ」

自らの失言にきまりの悪い思いをしている教師に、今日から瞬のクラスメイトになる生徒たちは全く気付いていなかった。
というより、そもそも彼等は、彼等の担任が失言をしたことに気付いていなかった。
彼等はぽかんと口をあけて、男子の制服を着た美少女の登場とその姿に ただただ見入っていたのである。

ホームルームが終わり担任教師が教室を出ていくと、彼等のうちの何人かが星矢の机の周りに駆け寄ってきた。
そして隣りの席についている瞬に遠慮して抑えた声で、口々に尋ねる。
「星矢、ほんとに男なのか? こちらさん」
「オトコオトコ。当の本人が10何年も前からそう主張し続けてる」
瞬の新しいクラスメイトたちは、星矢からその答えをもらうと、改めて信じ難いものを見る目で瞬を見やり、そうして首をかしげかしげしながら自分の席に戻っていった。

いくら声をひそめたところで、星矢の机と瞬の机は50センチと離れていないところにあるのである。
彼等の素朴な疑問は、星矢の隣りの席にいる瞬に筒抜けで、短い休み時間の間、瞬はのこめかみはぴくぴくと引きつりっぱなしだった。
星矢は、そんな幼馴染みの様子を見ては、無責任にげらげらと笑っていたのである。






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