「あのね。女みたいだって思わないでね。これ、マーマに。花瓶敷きなんだけど」 瞬が手編みのレースの花瓶敷きを氷河に手渡したのは、それから数日後の昼休みのことだった。 へたな口出しをして瞬に投げ飛ばされることを怖れている星矢は、二人のやりとりに気付かぬふうを装って、昼食後のデザートのメロンパンをかじっている。 「お花買ってたでしょ。使ってもらえるかな」 「……」 「手編みのレースって、雑貨屋さんや手芸屋さんにすごく高額で引き取ってもらえるんだよ。中学まではバイトができなかったから、お小使い稼ぎに覚えたんだ。実際に使う人もいるけど、壁に飾る人も多いみたい」 瞬にそれを押しつけられた氷河の口からは、『ありがとう』という礼の言葉も『こんなものはいらない』という受け取り拒否の言葉も返ってはこなかった。 が、瞬は既に、氷河の無反応をいちいち気に病むことがなくなっていたのである。 氷河の反応は、いつも一拍遅れて現われるのだ。 そういう状況に、瞬は慣れつつあった。 「ふふ。僕、一度、お母さんにプレゼントってしてみたかったんだ」 案の定、氷河の反応には、今日もかなりのタイムラグがあった。 「……ありがとう。マーマも喜ぶ」 そんなふうに、瞬は、氷河という友人の気質や性癖に馴染んでいったのである。 慣れてしまえば、それは奇癖でも 氷河があの花屋で薄桃色の小さな花を買ってる場面に 瞬が出くわしたのは、それから更に数日が過ぎた平日の夕方のことだった。 氷河が手にしているナデシコのブーケを見た時に瞬が最初に思ったのは、『そんな野草は氷河のマーマには似合わない』――ということだった。 思った途端に、気持ちが暗く重くなる。 氷河は彼のマーマ以外の誰かのために その花を買ったのだ――と、それは根拠のない確信だった。 「僕、氷河にはずっとマーマ一筋でいてほしかったのかな……」 翌日 瞬から氷河の“買い物”の話を聞かされた星矢は、まるで氷河に乗り移られでもしたかのように、反応らしい反応を示してくれなかった。 |