ところで、実は俺は“ねこまんま”なるものがどういうものなのかを知らなかった。
瞬がダイニングテーブルの上に並べた、炊き立ての飯にカツブシと醤油。
こんなふうにメシを食うこともできるのかと感激したのは事実だ。

俺のマーマはロシア人で、俺は日露のハーフだ。
突然変異なのか、数代前に日本人以外の血が入っていたのかは知らないが、遺伝子の優性の法則を完全に無視して、外見はいわゆるガイジンそのもの。
だが、俺は日本で生まれ育ったし、戸籍上でももちろん日本人。
しかし、今日ほど自分を日本人だと感じたことはない。
つくづく俺は日本人だと思った。
カツオブシと醤油だけがおかずの、考えようによっては悲惨の極致の朝飯。
その米の飯が死ぬほど美味く感じられる。
これが図々しい弟によって提供されたものでなかったら、俺は感動の涙を流すことすらしていたかもしれない。

俺に1ヶ月振りの朝飯を提供してくれた可愛いオトートは、
「氷河って、高校3年にもなって、まだお母さんのことをマーマって呼ぶことがあるってほんとですか?」
とか何とか くだらないことを言って、俺を足りないおかずの代わりにしながら ねこまんまを食している。
感動の涙と共にねこまんまを喉の奥に送り込みながら、俺は、瞬の前ではマーマの呼び名を『お袋』で通すことを決意した。






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