そこに、やっと物言わぬ葉っぱを見ていることに飽きたらしい氷河が登場する。
瞬の瞬らしからぬ答えに戸惑っていた星矢は、氷河を掴まえて、瞬に投じたものと同じ質問を彼にぶつけてみたのである。
「氷河、おまえは瞬のどこが好きなんだ?」
「なに?」

ふいにそんなことを尋ねられ 困惑の様子を見せはしたが、氷河は質問への答え自体は さほどの迷いもなくすぐに返してきた。
「どこと言われて……。瞬は優しいし、心身共に強いし、嫌いになる要素がないと思うが」
氷河のその答えに、星矢が大きく頷く。
我が意を得たりとばかりに、星矢は瞬に食ってかかった。

「どうだ。これが普通の答えだぜ。いかにも中身重視の日本人らしい答えだろ!」
気負い込んでそう告げてから、
(――ってことは、瞬より氷河の方が普通で、ハーフの氷河の方が 生粋の日本人の瞬より日本人らしいってことか……?)
と、自問する。
それも認めにくい事実だったが、ともかく、この件に関しては それが事実だった。
『顔が綺麗だから好きになった』とは、人が人を好きになる理由としては最低レベル、下の下の下の理由ではないか。
少なくとも瞬が口にしていい言葉ではない。

「だいいち、おまえ、そんな理由で好きだなんて、氷河が歳とったらどうすんだよ。誰だって、若い時の見てくれをいつまでも保てるわけじゃないんだぜ!」
その“理由”が最低レベルのものである第一の根拠を、星矢が瞬に披露する。
しかし、瞬は軽く首を横に振った。
「氷河は歳をとっても綺麗なままだよ」
「んなはずねーだろ!」
あくまでも前言を撤回しないところを見ると、瞬は本気で氷河の“綺麗な”顔が好きらしい。
処置なしと悟った星矢は、瞬の説得を諦めて氷河に向き直った。

「氷河、どう思う」
「どう思う……とは」
実は氷河は、星矢と瞬がどういう件でやり合っているのかが、まるで見えていなかった。
瞬のどこが好きかと問われ、その質問に答えはしたが、その答えが物議をかもしているわけでもないらしい。

氷河の反応の鈍さによって、星矢は自分が瞬の問題発言の内容を氷河に知らせていなかったことに気付いた。
不愉快そうに、その発言を氷河に告げる。
「瞬はおまえの そのキレーなツラが好きなんだとよ! ああ、あとカラダもか」
「……」
それは、氷河にとっても喜ばしい言葉ではなかったらしい。
そして、星矢同様氷河も、それを瞬らしくない意見だと思った。

氷河は一応、1分待ったのである。
瞬が星矢の言を否定、もしくは訂正してくれるのを。
やがて、期待したものは待っていても与えられないらしいことを悟り、氷河は いかにも無理をして作った苦笑をその顔に浮かべた。
「確かに……他に取りえも思いつかないな。我ながら」

腹を立てもしなければ 瞬を責めることもせず、へらへら笑ってみせる氷河に、星矢こそが腹を立てることになってしまったらしい。
「なら、せいぜい お肌の手入れでも頑張ることだな!」
吐き出すようにそう言って、星矢は乱暴な足取りでラウンジを出ていってしまったのだった。






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