かくして満場一致で、ラブノートの始末は女神アテナに託されることになったのである。 瞬がそのノートを持って沙織のところに行き、事情を説明して封印を頼むと、ノートを一瞥した沙織はこともなげに瞬に告げた。 「これは、特に何ということもない ごく普通のノートよ。どんな力も感じないわ」 「でも、書かれてる文字がどうしても消せなくて……」 「そういう紙でできているノートなんでしょう。グラード財団でも採用しているわよ。文書偽造を防ぐために」 「そ……そうなんですか」 アテナの全く深刻な色のない様子に、瞬はほっと安堵の息を洩らしたのである。 では、このノートに書かれていることが現実と一致したとしても、それらはすべて偶然の出来事に過ぎなかったのだ。 星の子学園の手乗りインコが9羽目の同類と意気投合したことも、住む世界が違っているような中年男性と若い女性が恋に落ちたことも、商売敵同士の家の二人の男女が引き起こした恋愛騒動も。そして、『氷河が瞬の気持ちに気付いた』ことも、『瞬が氷河の気持ちに気付いた』ことも。 瞬は、今度こそ本当に、その胸中にあった すべての懸念と不安を消し去って、心を安んじた。 「あなたもこのノートに何か書いたの? 氷河に好きになってほしいって?」 ラブノートを手にした沙織が、瞬に尋ねてくる。 自分が『わかりやすい』人間だというのは事実なのかもしれない――と、瞬は、その時初めて思ったのである。 沙織にすべてを見透かされていることに戸惑いながら、瞬は真っ赤になって首を横に振った。 「そこまでは書かずに済みました」 「そう。それはよかったこと」 瞬の返答を聞いた沙織は、その言葉に微笑み頷いて、実際には無力とはいえ 人の心を乱しかねない そのノートの始末を請け負ってくれたのだった。 |