時季的には少し早いが、今年は世界的に暖かいという話である。
あの北の大地でも、例年より早く待雪草の花が咲き始めているかもしれない。
沙織からの要請を受けた時、氷河は不謹慎にも、まずそう思った。
地球温暖化それ自体はよいことではないが、今回ばかりは都合がいい。
沙織に言われたことを調査がてら、二人でシベリアに行き、あの白い花の群れ咲く様を瞬に見せてやれば、瞬も機嫌を直してくれるに違いないと考えて、氷河は一も二もなく、沙織の要請を引き受けた。
だが、肝心の瞬が――いつもならも当たりまえのような顔をして氷河についてくる瞬が――氷河への同行を拒んだのである。

「この時季に、そんな寒いところ、行く気がしません」
そう言って、瞬は視線を脇に逸らしてしまった。
勝手に一人で期待していただけだったのだが、そういう期待こそ、裏切られた時のダメージは大きいものである。
氷河はついムッとして、
「俺一人で十分です。足手まといはいらない」
と、沙織に向かって――その実、瞬に対して――言い返してしまっていた。
一瞬、責めるような目を氷河に向けた瞬が、改めて不愉快そうに横を向く。

星矢と紫龍と、そして女神アテナは、呆れた顔をして、意地を張り続ける二人を眺めることになったのだった。






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