そうして迎えた宣誓式の日。 あろうことか 数日前に点検を済ませたばかりのシャンデリアの落下は、到底 事故とは考えられなかった。 幸い それだけ重いものが落下する際には、天井の軋み等それなりの前兆があったので、犠牲者になるはずだった者たちには難を逃れるための少々の猶予が与えられていた。 セイヤはサインを終えたばかりの宣誓書を鷲掴みにし、すぐ横にいたシュンに体当たりをして危機をしのごうとしたのだが、あいにく彼はそうすることができなかった。 セイヤがシュンを庇おうとした時には既に、シュンの身体は、宣誓台から相当離れた場所にいたはずのヒョウガの手によって、安全域に運ばれてしまっていたのである。 虚を衝かれた格好で、セイヤはひとり脇に飛び、ぎりぎりのところで加速のついたシャンデリアの下敷きになることを免れることができたのだった。 「ヒョウガっ! ヒョウガ、大丈夫っ !? 」 事故現場から離れた場所にいたことで、逆にセイヤたちより早くシャンデリアの異常に気付いたのだとしてしても、ヒョウガの移動速度は尋常の人間のそれではない。 砕けたガラスから身を挺してシュンを庇ったヒョウガの軍服には、ガラスのかけらが幾つも突き刺さっていた。 「シュン、無事か」 「無事だよっ! セイヤも」 「あいつは無事だろう」 声に澱みがないところを見ると、ヒョウガは怪我はしていないようだった。 「点検の後で細工をしたんだな」 悔しそうに言いながらシュンの上から身体をどかせたヒョウガが、シュンに手を差し延べてくる。 その手を取ろうとしたシュンは、ヒョウガの手の触れる直前で 戸惑ったように顔を伏せた。 「あの……どうしてセイヤじゃなく僕の方を――」 「……」 ヒョウガは問われたことに答えなかった。 答えが返ってこないので、シュンは続く言葉が見い出せず、宣誓書を手にしたセイヤは やはり全く訳がわからない顔で、黙り込んでいる二人の友人を見詰めていた。 シャンデリア落下の大音響に取り乱し、我先に安全な場所に逃げ出そうとした式の列席者たちにはなおさら、事の次第はわからなかった。 誰もが状況を理解できず沈黙を守っている中、その沈黙を破ったのは、式場の末席から次期大公とその友人の側に歩み寄ってきた王宮図書館の新米司書だった。 「もしかすると、ヒョウガがろくに睡眠も取らずにガードしていたのは、最初からセイヤじゃなくてシュンの方だったんじゃないのか?」 「へっ……」 未来の大公が、間の抜けた声を洩らす。 しかし、確かに現況はシリュウの言葉通りで、他に考えようのない状況だった。 皇太子の忠実この上ないボディガードと思われていた男が、いざという時に庇ったのは、未来の大公ではなく、その従者の方だったのだ。 |