いつのまに眠ってしまっていたのか――。
氷河が目覚めた時、彼の隣りに瞬の姿はなかった。
代わりに朝の陽光が、瞬のいた場所に明るく空しい陽だまりを作っている。
そして、氷河の目の前にあるテーブルに、1枚のカードとメモが置かれていた。
カードより先にメモを手に取ると、そこには瞬の字で、
『1億円入っています。カードの暗証番号は0801、ネットで決済を行なう場合には、グラード財団からもらった氷河のメールアドレスとh1y2o3s4h5u6n7のパスワードを使ってください』
と書かれている。

「なんだ?」
当然のことながら、氷河は、なぜそんなものが瞬の代わりにここにあるのかと、首をかしげることになった。
そういえば、夕べ、瞬が1億がどうとか こうとか、妙なことを言っていたような気がする。
もちろん氷河は、それを冗談だと思って、まともに受け取っていなかったのだが。

もしかしたら、このカードに、瞬からの本当のメッセージが隠されているのかもしれない。
そう思い立った氷河は、すぐに瞬のいない瞬の部屋を出て自室に戻り、パソコンをネットに繋ぐと、そのカードの情報を得られるサイトにアクセスしてみたのである。
が、氷河が期待していた瞬からのメッセージはそこにはなかった。
あるのは、ただ、預金額1億を示す、味気のない数字の羅列だけだったのである。

「何なんだ、これはっ」
瞬と抱き合うことも成らず、期待していた瞬からの熱いメッセージも手にできず、ありとあらゆる期待に裏切られたことに混乱と憤りと、そして僅かな不安を覚え、氷河は、0が8つ並んだパソコンの画面に怒声を叩きつけた。






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