シュンの案に相違して、ヒョウガはシュンをなじるようなことはしなかった。
彼は、突然、シュンを抱きしめると、
「なんて素晴らしい力を持っているんだ、おまえは!」
と、感極まったように明るい声を室内に響かせた。

(シュン、好きだ、好きだ、好きだ……!)
「あ……」
途端に、ヒョウガの心が、奔流のような激しさでシュンの中に流れ込んでくる。
その流れに押し流されそうになって、シュンは目眩いを覚えた。

「本当に俺の心が読めるんだな?」
「は……はい」
「俺の心を読んだか」
「はい……」
ヒョウガはその瞳を輝かせて、シュンに問うてくる。
不安や怖れとは違う気持ちのせいで、シュンはその瞼を伏せることになった。

「それで、おまえは――」
返事を求められていることはわかるのだが、何と答えればいいのかがわからない。
自分はこんなに不器用で機転の利かない人間だったのかと驚きながら、シュンは、
「あ……あんまり強い思いで……僕の心の方が呑み込まれてしまいそう。気が遠くなりそう……」
と、小さな声で答えるのが精一杯だった。

ヒョウガの心は決して単純ではない――ということに、その時 シュンは初めて気付いた。
正直な人の心は、嘘のない人の心は、あまりにも深すぎる――ということに。
その、底を見極められないほど深い心を持った人が、ますます強くシュンを抱きしめてくる。
「全部読んでくれ。すべて。俺は、不器用で、口下手で、自分の気持ちをうまく伝えられない」

言葉では伝えられない この気持ちが少しでも正しく伝わってくれればと、ヒョウガはシュンを抱きしめることにすっかり夢中になっていた。
もっとシュンと触れ合いたい、もっとシュンに この思いを知ってもらうにはどうすればいいのか――。
本当に自分の心が正しくシュンに伝わっていると実感できないことに もどかしさを覚えたヒョウガは、その時 突然、自らの焦慮を消し去るのに最適な方法を思いついた。

足元が覚束ない様子でいるシュンの身体を抱き上げ、2階の自室に運ぶ。
シュンを寝台に横たえると、ヒョウガは、息をつくほどの間も置かず、シュンの身体に覆いかぶさっていった。
断りを入れなくてもシュンはすべてを承知しているのだという気持ちが、ヒョウガに躊躇の必要を感じさせなかった。

シュンが身に着けているものをすべて剥ぎ取って、ヒョウガは、シュンの身体の至るところに その手を伸ばし、触れ、愛撫し、唇を這わせた。
ヒョウガの嵐のような心に酔っていたシュンは、そうして、ヒョウガと『触れ合う』どころか、いつのまにか彼を自分の身体の中に迎え入れてしまっていたのである。

「ああ……っ!」
ヒョウガはシュンの身の内に触れて・・・いるだけのつもりなのかもしれなかったが、その触れ合いには大きな痛みが伴った。
だが、ヒョウガがより深くシュンに触れようとして その身体を進める間にも、彼が彼自身の快楽を求めて抜き差しを繰り返している間にも、ヒョウガの心は途切れることなくシュンの中に流れ込んできて、その心が、シュンの身体の肉体的な痛みをすべて、意識を保っているのが困難なほどの陶酔に変えてしまっていた。

(愛してる。可愛い。俺のもの。離さない。いい。この身体。熱い。吸いつくよう。素晴らしい――)
身体を交えると、ヒョウガの思いは断片的になり、その中には意味のわからない言葉もあるにはあったが、ヒョウガが自分を熱烈に求めてくれていることだけは、シュンにもわかった。
これほど近くに人の身体を感じることも、これほど人の心に触れることが快く感じられることも、これほど強く人に求められることも、すべてがシュンには初めての経験だった。

人間が、飾り偽ることのできる肉体と、言葉や行動で隠すことのできる心の二つを持っていること。
その事実を憎み続けてきたシュンが、今は、自分が身体と心を持つ人間として この世に存在することに心から感謝し、そして歓喜していた。






【next】