いよいよ明日は決戦の日。 どうしても好きになれないだろう相手を迎えるために、私がそれでも念入りに家中の掃除をしたのは、母ひとり子ひとりの家庭でも、私の手は家庭のすみずみまで行き届いているってことを、その子に誇示したかったからだったのかもしれない。 私の機嫌を損ねてまでお膳立てしたその日が翌日に迫っているっていうのに、氷河は妙に沈んでたけど。 「明日……もしかしたら、来てくれないかもしれない」 「え? 何かあったの?」 「俺が知らないうちに――怒らせてしまったらしいんだ。ここ2、3日、どうも避けられてるような気がする。明日の時間と場所は伝えてあるんだが」 「あら、気分屋さんなのね。それならそれでいいじゃない。楽しい失恋パーティにしましょ」 そう、それならそれでいいわ。 明日は、氷河の好きな子に私が対面する日じゃないの。 明日は、私が氷河から子離れして、氷河が私の許から巣立つ日。 氷河の彼女が来ても来なくても、それは二次的なことなのよ。 そう決意した私って、本当に健気な母親。 自分で自分を褒めてあげたいくらいだわ。 人間っていうのは、いくつになっても成長を続けるもの。 私は、氷河の母親であると同時に、自由な意思を持ち自立した一個の人間なのよ。 それでいいし、そうあるべきだわ。 ――なーんてことを考えて、私が自分のカッコよさに悦に入ってた翌日――ご対面当日。 先に私と氷河の家のドアベルを鳴らしたのは、氷河の彼女じゃなく瞬ちゃんだった。 「まあ、瞬ちゃん、よく来てくれたわね!」 時刻は10時5分。 約束の時間からちょうど5分後。 さすがは瞬ちゃん、訪問の心得もばっちり。 でも、これより遅れたら遅刻で、ただの無作法になるわよ。 ――と思いながら、私は満面の笑みで瞬ちゃんを出迎えたんだけど。 そんな私を押しのけて、玄関に立つ瞬ちゃんの手に すがりつかんばかりの勢いで飛びついていったのは、何を隠そう(隠す気もないけど)私の最愛の息子だった。 「瞬、来てくれたんだなっ! 嫌われてしまったのかと心配してたんだ!」 「あの……氷河先輩……?」 突然 でかい図体の男に手を握られちゃった瞬ちゃんは、まるで訳がわかっていない顔をして、その場に立ち尽くしていた。 |