La Vie D'or -金色の人生-

− I −







初めて会う人には必ず「双子のお嬢様ですか」と尋ねられるほど、シュンとシュンの従姉であるエスメラルダの顔立ちは似ていた。
対照的に、実兄といる時には「お友だち同士?」と訊かれることが多く、さすがに兄を『お友だち』と言うことはなかったが、シュンも10を過ぎる頃には、初対面の人間には機先を制して、エスメラルダを自分の姉と紹介するようになっていた。

シュンの亡くなった母とエスメラルダの母が姉妹で、二人は母親似。
シュンの兄は父親似。
それは特に不自然なことではなかったし、両親を早くに亡くしたエスメラルダはシュンの家の養女となっていたので、実際シュンは彼女と実の姉弟のように暮らしていたのである。

シュンはエスメラルダを実の姉のように慕っていたが、エスメラルダは両親を亡くした孤児を引き取り育ててもらっているという恩を伯父に感じているのか、万事に控えめで大人しい少女だった。
その姿もひっそりと野に咲く可憐な花のようで――つまり、男子であるシュンに似ているエスメラルダの面立ちが男らしいのではなく、シュンの方が少女めいた顔立ちをしている少年だったのである。

シュンより2歳年上のエスメラルダは芳紀まさに18歳。
彼女の許に縁談が持ち込まれたことは不思議なことでも何でもなく、むしろ至極自然なことだった。
養父とはいえ、彼女の父は英国屈指の――つまりは欧州屈指の――資産家で、彼女につけられる持参金は相当の額になることになっていたし、エスメラルダ本人も美しい。
遅かれ早かれ、彼女の周囲に多くの求婚者が群がってくるだろうことを、彼女の周囲の者たちは疑っていなかったのである。

問題は、エスメラルダに好きな相手がいるということ。
縁談を持ってきたのが、暇を持て余した有閑夫人でも、年頃の息子を持った上流階級の夫人でもなく、エスメラルダの養父その人だったこと。
そして、エスメラルダの縁談の相手であるという人物が、ありとあらゆる意味で、英国屈指の資産家令嬢には不釣合いな青年である――ということだけだった。






【next】