「恋人が、セックスは許してくれるのに、唇へのキスは断固として拒むというのは、どういうことだろう?」
さすがに瞬には訊けないので――俺は俺の仲間たちに意見を求めてみた。
俺の仲間たちは、俺と瞬のことを知っていても非難することはおろか、それを不自然なことだと考えている気配すら見せない奴等――まあ、リベラルな人間たちだ。

そのリベラルな仲間の一人が、尤もらしい顔をして俺に言う。
「その昔、吉原の遊郭では『口吸いは、好いた男とだけ』というのがあったそうだが」
「……」
それは、俺が瞬の『好いた男』じゃないということか?
瞬には、俺の他に好きな奴がいると?

まさか。
こいつは、瞬が毎晩俺の腕の中でどれだけ可愛く喘いでいるのかを知らないから、そんなことが言えるんだ。
瞬は、毎晩、まるで世界の幸福をすべて独り占めしているような表情をして、俺の愛撫を受けている。
うっとりと満ち足りて幸福そうな瞬のその表情を見て、俺は、まるで健やかに成長している我が子を見詰める母親のようだと思うことさえあった。
あの時の瞬の様子を知らないから、こいつはそんな馬鹿げた説を持ち出せるんだ。

俺が機嫌を損ねたのがわかったらしい(それはそうだろう)。
奴は、推論の切り口を変えてきた。
「キスは恋の目覚めを意味するもの だそうだからな。瞬は、心までおまえに支配されてしまうことを恐れているのかもしれない」
言い方を変えても同じこと。
こいつは、瞬の心が俺のものじゃないと言っている。
俺はムッとした。
そんなことがあるはずがない。

心が伴っていないとセックスで性的満足を得ることは不可能――なんてことを主張するつもりはないが、瞬が俺を好きでいてくれなかったら、俺たちにあんなセックスはできないだろう。
瞬が俺を好きでいてくれなかったら、自分の身体を無理に押し開き、欲望を放つために侵入してくる残酷な男を、瞬があんなに優しく抱きしめてくれるはずがないし、あんなに情熱的に受け入れてくれるはずもない。
何より、瞬は、俺が『愛している』と言えば、ひどく嬉しそうに微笑んでくれるし、『俺を好きか』と尋ねれば、真顔でしっかり頷いてくれる。
瞬が俺を好きじゃないなんて、それは絶対にありえないことだった。






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