氷河が悪いんじゃない。 あれじゃあ、僕が氷河にそうされることを望んでいたって氷河が思ったとしても当然。 氷河は、僕に謝らなきゃならないようなことは何一つしていない。 僕があんなふうに、まるで魔法にかけられたみたいに自分の意識を手放して氷河の腕の中に収まることになっていたのかは、自分でもよくわからなかったけど。 氷河の空の色をした瞳を見ていたら、僕の心は ついふらふらと氷河の瞳の中に飛び込んでいっちゃって――。 自分の部屋に息せききって逃げ込んでから、何ていうか、僕は僕の心を氷河の瞳の中に忘れてきてしまったみたいな気持ちになった。 氷河はきっと空色の魔法で、僕の心をあの瞳の中に吸い取ってしまったんだ。 ぽっかりと胸に穴のあいたみたいな感覚が、僕を落ち着かない気持ちにさせる。 僕は僕の心を取り返さなきゃならない。 でも、どうすれば取り返せるんだろう。 もう一度あの瞳を見てしまったら、僕は、きっと心だけじゃなく身体ごと 氷河の瞳の中に吸い込まれ閉じ込められてしまう。 でも、心を他人の瞳の中に忘れたままではいられないから――。 いつまでもこんな空虚な不安を抱えてはいられないから――。 尻込みする自分自身を励まして、なんとか勇気を振り絞り、僕は氷河の部屋に僕の心を取り戻しに行くことにした。 氷河の瞳に置き忘れてきた心を取り戻さなきゃならないというのもあったけど、それよりも。 まるで氷河から逃げるみたいに自分の部屋に駆け戻った僕は、このまま何もしないでいたら氷河に誤解され、氷河に嫌われてしまうことになるんじゃないかって、それが恐くてならなかったんだ。 それだけは嫌――そんなことになるのは、僕は絶対に嫌だった。 そうして僕は氷河の部屋に行き、そこでまた氷河の空色の瞳に出会い――結果だけを言うと、僕は氷河の瞳の中に置き忘れてきた僕の心を、氷河から取り戻すことはできなかった。 心を取り戻すどころか――逆に、僕は、心だけじゃなく身体まで氷河の瞳の中に囚われてしまったんだ。 |