「お……面白い組み合わせだね」
カシオスより頭二つ分小さな瞬が カシオスの隣りに立つ様を見て、シャイナは開口一番にそう言った。
「ウドの大木の根方にタンポポの花が咲いているみたいだよ、おまえたち」
カシオスの師匠だというのに、シャイナは口が悪い。
だが、彼女が優しい女性であることを、瞬は疑う気持ちになれなかった。
なにしろカシオスが、彼女は優しい女性だと断言していたのだから。

「僕たち、友だちになったんです。ねっ」
「あ……ああ」
瞬に何か言われるたびに カシオスがいちいち赤くなるのは、彼の癖というより、彼がその手のことを人に言われ慣れていないせいらしい。
つまり、これまでに彼の美質に気付いた人間がほとんどいなかったということなのだろう。
だが、シャイナはさすがに愛弟子の美質をちゃんと承知していた。

「仲良くしてやってくれ。カシオスは、ぱっと見たところは恐そうだが――」
「とっても優しい」
瞬がシャイナの言葉の先を引き受けると、シャイナは仮面の下で驚きに目を見開いた――多分。
そして彼女は、“優しい”カシオスの師匠らしく、仮面の下で優しく微笑んだ――おそらく。
「カシオスは、瞬とは気が合うかもしれないな。カシオスには友だちが必要だよ」
瞬はもちろん、カシオスの優しい師匠に大きく頷き返したのである。

シャイナが住まいにしている建物は、聖域の外れにある小さな石造りの家だった。
黄金聖闘士たちの守る宮の壮麗さに比べれば、小屋と表しても間違いはないような、こじんまりとした家。
初めてその家を訪ねた瞬は、そこですっかり お客様扱いを受けることになってしまったのである。
質素な木のテーブルに着くと、どこからともなくカシオスが無骨な手で水の入ったグラスと いかにも甘みのなさそうな焼き菓子を、瞬とシャイナの前に運んできた。
「瞬の口に合うといいんだが。キビやアワを混ぜたビスケットなんだ」
そうカシオスが言うところをみると、その菓子は彼のお手製であるらしい。
瞬がありがとうと言って、いかにも身体によさそうなビスケットに口をつけている間にも、カシオスは先程摘んできたアガパンサスの花を活けた鉢を、いそいそと窓辺に飾っている。

「な……なんか、カシオスってすごい」
彼のまめまめしい働き振りに感心して瞬が呟くと、シャイナが、カシオスは料理や掃除のみならず繕い物もできるのだと教えてくれた。
「繕い物まで? それ、シャイナさんが教えたんですか」
「いや。あたしは、そういうのはからっきしだ。だから、カシオスがいつのまにか覚えちまったんだよ」
「へ……え。シャイナさんって、いい先生なんですね」
「それは皮肉かい」

いきがるように瞬に突っかかってくるシャイナの声が、今日はひどく優しい。
十二の宮とは比較にならないほど 質素でささやかな この家を満たしている空気は、瞬にはとても心地良く感じられるものだった。
男女それぞれの性に社会が期待している役割にこだわることが馬鹿らしく思えるほど、性役割ジェンダールールが逆転している この師弟の関係は、瞬の目にとても自然で好ましいものに映ったのである。






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