7日目――二人に残された最後の日――を、氷河と瞬は迎えていました。
互いに互いを『嫌いだ』と言ったままで。
でも、本当は誰よりも愛している人。
その姿を見ていられるのは今日が最後になる、誰よりも大切な人――。
二人が生者の国にいられるのは、今日の正午までと決められていました。

その日、二人は、朝からずっと無言で互いを見詰めていました。
今日が最後。
これが最後。
もう永遠に会えない、二人はもう二度と触れ合うことはできないのだ――という事実に苛まれ苦しみながら。

刻々と時間は過ぎていきます。
星矢や紫龍の前で死んでしまいたくなかった二人がラウンジを出たのが、最後の時の30分前。
冷たく張り詰めた外気を『冷たい』と感じることさえできずに、二人は城戸邸の庭に一定の距離を保って立ち続け、互いを見詰め続けていました。
無言で。
互いに互いを『嫌いだ』と言ったままで。

時の過ぎるのが ひどく遅く感じられ、また、ひどく速くも感じられ――。
そして、もうすぐ、あと幾度か瞬きをしたら その時が訪れるかもしれないという時、もう時間はいくらも残されていないと悟った時、二人は思ったのです。

もう自分は生きていない。
真実を言っても言わなくても、自分はもう この世界から消えるしかない。
ならば、言わなければ。
真実を言っておかなければ――と。

それでも、自分が言葉を発する前に その時が訪れてくれるようにと 心の中で祈りながら、二人はゆっくりと互いに愛する人の側に歩み寄っていきました。
“真実”を。
今こそ、“真実”を。
残される人に、残される人のために、真実を――。

そうして、氷河は“真実”を口にしました。
そうして、瞬は、“真実”を口にしたのです。
「瞬、俺のことを忘れて、幸せになってくれ」
「氷河、僕のことを忘れて、幸せになって」

誰よりも愛しく、誰よりも大切な人への、最期の、真実の願い。
自分の“真実”を言葉にし、互いの瞳を見詰めた時。
氷河は、瞬が自分を愛してくれていることを知りました。
瞬は、氷河が自分を愛してくれていることを知ったのです。
誰よりも幸せになってほしい人が、自分の死を悲しむこと、自分の死に苦しむことを、二人は知ってしまったのです。

だから――その瞬間、悲しみのあまり、二人の時間は止まってしまったのでした。






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