「何者だっ!」
星矢は、氷河と一輝を問い詰めることより、突然の闖入者への誰何すいかの方を優先せざるを得なくされた。
「通りすがりのアテナの敵だ!」
いかにも脇役らしい名乗りをあげて、何かを勘違いしているらしい十数人ほどの男たちが瞬の・・アイスクリームケーキに向かって突進してくる。

「うぬう」
可愛い弟を喜ばせるために恥ずかしい思いをして買ってきたアイスクリームケーキを死守するために、当然 一輝はその小宇宙を燃やし始めた。
氷河がそんな瞬の兄の頭をど突き、怒声をあげる。
「やめんかっ! 低温には下限があるが、高温には上限はない。貴様が 貴様の糞熱い小宇宙を本気で燃やしたりなんかしたら、瞬のアイスクリームケーキが溶けてしまうだろうがっ!」
「む……」

一輝が一瞬ひるんだところに、敵が飛びかかってくる。
通りすがりの脇役とはいえ、城戸邸の厳重なセキュリティシステムをかいくぐって邸内に入り込んできた者たち、彼等は一応 常人に勝る戦闘力を その身に備えているようだった。
氷河が、即座に、一輝とは違って燃やし放題の冷たい小宇宙を、敵に向かって大々的に解き放つ。
それで半数の敵の手足が凍りついた――のはよかったのだが、氷河の凍気は、氷雪の聖闘士と通りすがりの敵のちょうど中間地点にいた星矢の髪までを、ぱきんぱきんに凍りつかせることになってしまったのだった。

「どういうことだよっ! おまえが一輝を庇うために、俺に攻撃を仕掛けてくるなんて!」
それでなくても理解不能の展開に苛立っていた星矢が 氷河に詰め寄ろうとした時、本日3組目の乱入者が出現。
3度目に星矢の行動を邪魔してきたのは、他ならぬ彼の女神だった。
城戸邸の窓の一つから顔を覗かせた沙織が、彼女の聖闘士に 緊張感の『き』の字もない声を投げかけてきたのである。

「瞬ー! ちょっと おつかいを頼まれてくれないかしらー」
「え」
手元にチェーンがないとなると、生身の拳を使うしかない。
しかし、これほど非力そうな敵に そんな無慈悲なことをしていいのだろうかと悩んでいた瞬は、沙織のその声のせいで、苦悩の中断を余儀なくされた。

「星の子学園に、中華まんを100個ほど運んでほしいんだけど」
「今、取り込み中です」
「あら、敵が来ていたの? でも、瞬ひとりくらい抜けても平気でしょう? すごく弱そうよ、その人たち」
「そんな……いくらほんとのことでも失礼です、沙織さん」

真に礼を失しているのは沙織か瞬か。
その問題の答えはともかくとして、強すぎて戦力にならない丸腰の瞬が 今ここにいても何の益にもならないというのは、厳然たる事実だった。
星矢が敵の一人を人差し指で撫で倒しつつ、瞬に声をかける。
「いいよ、行ってこいよ。ここは俺たちだけで大丈夫だから」
「あ……うん。じゃあ、中華まんを届けたら、すぐに戻ってくるから……」
「その頃には片付いてる。帰ってきたら、一緒にアイスクリームケーキ食おうぜ!」
「あ、そだね!」

今日は特別のおやつがあることを思い出した瞬が、途端に軽快な足取りで沙織のいる方に向かって駆け出す。
その10秒後、通りすがりの敵さんたちは全員、氷河が作った即席の氷室の周囲にごろごろと倒れ伏してしまっていた。






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