あの時 自分は死んだはず――と、瞬は思っていた。 小宇宙も持たない一人の非力な人間が、強大な小宇宙を持つ謎の存在に逆らって生き永らえることができるはずがない。 あの闇の者は、瞬の心を殺すことはできなくても、瞬の身体をなら簡単に殺すことができたはずだった。 だというのに、どういうわけか、瞬は死ななかった。 それだけでなく、あの闇の者の不吉な予言もまた外れた。 死の淵から生還し 再び仲間たちと戦い続ける決意をした氷河は、彼を 無理に戦いと苦しみの待つ生者の世界に引き戻した瞬を恨んだりはしなかったのだ。 それどころか、彼は、 「俺は愚かで弱い人間だった。瞬、ありがとう」 と言って、瞬を抱きしめてくれさえしたのである。 自分が死ななかったことに戸惑いは覚えたものの、瞬は 氷河のその決意は嬉しかった。 これからも自分は 氷河の傍らに仲間として立ち、彼と共に戦っていけるのだ。 その思いは、瞬の心を高揚させた。 彼等を騙す行為は続けなければならないにしても。 瞬がそんなふうに考えられるようになったのは、瞬の反抗に腹を立て 瞬から離れていっても仕方がないと思っていた瞬の小宇宙の持ち主が、瞬の許から立ち去ることをしなかったからだった。 彼は、十二宮での戦いが終わっても、その小宇宙を瞬に それは奇妙なことだった。 そして、奇妙な感覚だった。 確かに、自分の内にある小宇宙はこれまで通り、自分のものではないような気がする。 自分の力がこんなに大きいはずはないとも思う。 だが、天秤宮以降、瞬は、あの“他人の力”を捻じ伏せて、自分の意思の通りに使いこなせるようになっていたのだ。 その力を用いて、瞬は氷河たちの仲間として戦い続けることができたのである。 以前にも増して優しくなった氷河に対して、仲間を騙し続けることへの罪悪感を抱きながらではあったが。 北欧の神闘士、海界の海闘士――。 アテナの聖闘士たちの戦いは終わらず、瞬は相変わらず 虎の威を借る狐だった。 自分が本当はアテナの聖闘士でなはないことへの後ろめたさは消えない。 だが、できる限り 仲間たちと一緒にいたい。 それができなくなる時まで、微力でも仲間たちの力になりたい。 今では それが瞬の唯一の願いになっていた。 終わらない戦い。 今 アテナの聖闘士たちの仲間が一人 脱落することは、彼等の士気にも悪い影響を及ぼすことになるだろう。 瞬は、その時の訪れが少しでも遠い未来であるようにと祈りながら、アテナの聖闘士としての戦いを続けたのである。 |