翌日の午後、氷河と瞬が星の子学園を再訪したのは、さっちゃんと さっちゃんを泣かせた腕白坊主たちの その後が気になったからだった。
何はともあれ、彼等は、同じ“家”で生活を共にする家族(のようなもの)であり、だが、血のつながらない他人でもある。
そして、その“家”の中には、彼等以外にも多くの子供たちがいる。
単純な家族でも他人でもない分、彼等の関係が円滑でない状態が続くことは、当人たちにも他の子供たちにも あまり好ましいとはいえない影響を及ぼすことになるだろう。
子供だから、わだかまりをすぐに忘れてしまうとも言い切れない。
瞬は そんなふうな様々なことを心配し、氷河は そんな瞬を心配して――二人は、親のない子供たちの暮らす学園に向かったのだった。

そんな瞬たちを出迎えたのは、今日は さっちゃんの泣き声ではなく、弾んだ声と笑顔だった。
恐る恐る遊戯室のドアを開けた瞬の姿を認めると、さっちゃんは歓声をあげて瞬に飛びついてきた。
「瞬ちゃん! あの花冠が直ってたの! 私のとこにも小人さんが来てくれた! 花冠が元に戻ってたの!」
「え……?」
「アキラちゃんたちを許さなくても、ちゃんといいことがあった! そうだよね! だって、私、何も悪いことしてないんだもん!」
「あ……」

戸惑いながら瞬が視線を巡らせた遊戯室のテーブルの上には、確かに、クローバーの葉と萩の花でできた花冠が、綺麗な円を描いた状態で置かれていた。
得意満面のさっちゃんを、美穂たちが複雑な困惑の混じった笑顔で見詰めている。
室内に腕白坊主たちの姿はなかったが、さっちゃん以外の女の子たちが、ある者はさっちゃん同様楽しそうな笑顔で、ある者は半信半疑の顔をして、さっちゃんの花冠を見詰めている。
瞬は、嬉しそうな さっちゃんに、『よかったね』と言ってやることはできなかった。

『よかったね』と言ってしまわない瞬を見て、氷河は少しばかり安堵したのである。
瞬がおとぎ話の世界の住人になりきっていないことを確信して、氷河は心を安んじた。






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