瞬は氷河に組み敷かれても、何も言わなかった。
『いやだ』とも『やめろ』とも言わなかった。
身につけていた衣類をすべて剥ぎ取られた時も、抗する様子さえ見せなかった。
まともな判断力を失った男に身体中を撫でまわされ、舐められ、時には歯を立てられても、瞬は ただ切なげな喘ぎ声を洩らして氷河を煽っただけだった。
氷河が あらぬ場所に触れても、その唇をこじ開けても、瞬の身体を捩じり折り曲げ開かせても、その指を瞬の身体の内部に侵入させた時にすら、瞬は『やめろ』とは言わなかった。

瞬が初めて拒絶の言葉らしきものを口の端にのぼらせたのは、指でも舌でもない氷河の身体の一部が瞬の中に押し入った時。
瞬は『痛い』と訴えて、氷河の身体を押しのけようとした。
瞬の苦しげな声を聞かされて、氷河はやっと我にかえり、自分が瞬に何をしているのかを明瞭に自覚したのである。
氷河がまともな判断力を取り戻して冷静になった時には、だが、氷河の身体の方は 到底 冷静とは言い難い状態になってしまっていたのである。

「いや……いたい……痛い……」
「すまん、許してくれ。我慢してくれ」
瞬のまなじりを伝う涙に、氷河の心は痛んでいるのに、氷河の身体は心とは反対の行為を強行しようとする。
瞬の狭さ温かさに狂喜して、氷河の身体は更に瞬の奥深くに進み続けていた。
氷河自身にも、それは止めることができなかった。

「あっ……ああ……ああ……っ!」
瞬の悲鳴は更に悲痛なものになり、だが、瞬の身体は 苦しげな声とは逆に 氷河に吸いつき絡みついてくる。
「瞬、許してくれ。もう少しだけ、耐えてくれ」
氷河が瞬を揺さぶりながら許しを乞うと、瞬は それでなくても固く閉じていた目を更に強く閉じた。
そして、微かな泣き声のような声で
「うん」
と答え、次の瞬間には悲惨なほど 身体をのけぞらせた。
「ああああ……っ!」

こんな状態で、まさか瞬がそんな答えを返してくはずがない。
馬鹿げた幻聴だと思いながら、氷河は瞬の中に更に深く沈み込んでいった。






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