本意ではなかったにしても、その夜 瞬が氷河の強引のせいで楽しい思いをしたのは、紛う方なき事実だった。
だが、であればこそ、瞬は、多少の自己嫌悪もあって、翌朝 星矢たちの前に暗く沈んだ憂い顔を運ぶことになったのである。

「氷河の落ち込みと自虐の原因はわかったのか?」
『おはよう』の代わりに そう尋ねてきた星矢に、瞬が力なく首を横に振る。
「訊いてみたんだけど、うまく ごまかされちゃったみたい」
「それは心配だな」
紫龍は、瞬がどういうふうに氷河に ごまかされてしまったのかを察している顔をしていた。
それで瞬は、ますます いたたまれない気持ちになってしまったのである。
「悩み事があるのなら、言ってくれればいいのに……。僕たち、仲間なのに、どうして言ってくれないんだろう……」

氷河の様子は、傍から見ている分には普段と全く変わったところがない。
彼が抱えている悩み事を、氷河は完璧に隠しきっていた。
それが かえって氷河の悩みの深さを物語っているように、瞬には思われた。
にもかかわらず、氷河が何も言ってくれないことが、瞬の心を沈ませる。
氷河に彼の悩みを打ち明けてもらえないこと、彼の力になれないことによって生じる瞬の無力感は 日を追うごとに強くなり、瞬の落ち込みの度合いもまた 日を追うに従って どんどん深度を増すことになったのだった。






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