星矢と紫龍が立ち去ったあとの謁見の間に突然 飛び出てきた聖闘士未満の二人の少年に、アテナは さほど驚いた様子を見せなかった。 二人の――主にミラクの――訴えを聞くと、アテナは女神の御座所に楽しそうな笑い声を響かせさえした。 そうしてアテナは、決死の表情のミラクと、女神の前で ひたすら畏れかしこまっているサダルに、明るく弾むような声で告げたのだった。 「あなた方がどうしてもアンドロメダ座の聖衣と白鳥座の聖衣をほしいというのなら、考えないこともないのだけど、それは私の一存で決められることではないわ。教皇の意見も聞いてみないと」 「えっ」 聖衣を手に入れて聖闘士になりたい。 その一念でアテナへの直談判に及ぶこともできたミラクが、アテナのその言葉に顔を引きつらせる。 ミラクは、二重人格の噂もある教皇が恐いから、彼を飛び越えてアテナへの直訴に及んだのである。 それでなくても教皇の前に出るのは恐いのに、彼の存在を無視し、アテナへの直訴に及んだ訳を教皇に問われたら、何と答えればいいのか。 ミラクは、アテナの笑顔に震えを覚えた。 が、アテナはミラク以上に恐いもの知らずであるらしく――彼女が教皇を恐れていないのは、当然のことではあるのだが――あくまでも、どこまでも楽しげだった。 「あなた方は教皇と膝を交えて話をしたこともないでしょう。ちょうどいい機会だわ。教皇のところに行って、アンドロメダの聖衣とキグナスの聖衣をくださいと頼んでみましょう。私も一緒に頼んであげる。さ、行きましょ、行きましょ。善は急げよ」 「あ……あの……ですが、アテナ――」 『教皇は恐いから嫌です』とは、さすがのミラクにも言えなかった。 そんなことを言って、『アテナは恐くないのか』と問い返されでもしたら、返す言葉が思いつかない。 この段になって、ミラクは初めて、直訴・直談判という行為の持つ危険性に思い至ったのである。 それは、彼の師だけでなく アテナや教皇の立場を無視し軽んじた、途轍もなく危険かつ無謀な冒険だったのだということに。 |