「ここに来る途中、皆が やたら じろじろと俺たちを見ていたんだが、おまえら、理由を知っているか? もしかしたら、瞬がアテナに呼ばれたのは、それに関係することなのか?」
瞬が自分から話そうとしないことを 無理に聞き出そうとすることは はばかられる。
となると、氷河が事情を尋ねる相手は星矢と紫龍しかいない。
大きな大理石の塊りがごろごろ転がっている石切り場に着くと、氷河は早速、瞬の目を盗んで、自分の知りたいことを星矢たちに尋ねていった。
問われた星矢と紫龍が、一度 その顔を見合わせてから、改めて氷河の方に向き直る。
そのあたりの事情を知っているらしい星矢たちは、だが、彼等の知っていることを氷河に教えてはくれなかった。
事情を教えてくれるどころか、彼等は 逆に、
「瞬は、おまえに何て言ったんだよ?」
と、氷河に反問してきたのだった。

「何も言ってくれない」
だから貴様等に訊いているのだと、氷河は少しく苛立った。
そんな氷河の前で、星矢が わざとらしく両の肩をすくめてみせる。
「そりゃ、言いにくいよなー」
「……」

やはり星矢たちは、白鳥座の聖闘士が知らない事実を知っているらしい。
氷河は当然、その情報を白状させるため、星矢への恫喝に及んだのである。
「もったいぶらずに、さっさと言え! 瞬の言いにくいこととは何だ!」
氷河の口調が荒々しいものになったのは、聖域の者たちの不躾な視線の訳が知りたかったというより、瞬が自分に何か隠しごとをしていて、自分の知らないことを星矢たちが知っているという事実に苛立ちを覚えたからだったろう。
いきりたち 気色ばんでいる氷河を、腹立たしいほど落ち着いた声で、紫龍が いさめてくる。

「しかし、瞬が言わないことを、俺たちが勝手に おまえに知らせるわけにはいかんだろう」
仲間の 至極尤もな言い分に、我知らず 氷河はむっとした。
気が立っている氷河の反駁を阻むためか、あるいは親切心からか―― 十中八九、前者だろう――それでも、紫龍は、
「これは おまえと瞬の問題だ。俺たちが脇から口出しをしていいようなことではない」
という情報だけは与えてくれたのである。
つまり、それだけの情報しか与えてくれなかった。






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