会いたい人に会えない苛立ち。 その名を呼ぶこともできない もどかしさ。 四六時中 あの天使のことを考えている毎日。 だが、俺の恋はどんな進展も見せない――。 俺が その暴挙に及んだのは、積もりに積もったアンドロメダ座の聖闘士への憎しみが抑えきれなくなったからじゃなく、天使に会えないことへの苛立ちや空しさや焦りが 俺からまともな判断力を奪い去り、俺を自暴自棄にしたからだった。 おそらく、そうだった。 一介の雑兵が、仮にもアテナから聖衣を授かった聖闘士に勝てるわけがないと、暴挙に及んだ その瞬間にも、俺はわかっていたんだから。 俺がアンドロメダ座の聖闘士を襲って 逆に打ち負かされ、絶体絶命の窮地に追い込まれたら、アルビオレ先生と同じ目をした天使が俺を救いに来てくれるんじゃないかと、見事に冷静な判断力を欠いた俺は考えたんだ。 いや、俺は“考え”さえしていなかった。 俺は何も考えていなかった。 ただただ もう一度 あの天使に会いたいと渇望していただけで。 その日、アンドロメダ座の聖闘士と白鳥座の聖闘士が日本に帰るという話を聞いた俺は、アテナ神殿を出て教皇殿に向かって下りていくキグナスの隣りにいる人物に向かって飛びかかっていった。 「アルビオレ先生の仇っ!」 「えっ」 不意打ちで飛びかかっていった俺を、瞬は さすがとしかいいようのない素早さと最小限の動きだけで かわしてみせた。 「何者だっ」 大きく動いたのは むしろキグナスの方で、奴は 瞬を守って戦えることが至上の喜びだとでもいうかのように嬉しそうに、俺の足を払い、前のめりに倒れかけた俺の腕を掴むと、一瞬で羽交い絞めの態勢にもっていった。 「おまえ――」 俺が何者なのかに気付いて、奴は少し驚いたらしい。 「貴様、どこぞの刺客か何かだったのか。瞬の顔も知らないくせに瞬にこだわっていたのは そういうことか」 キグナスが何やら意味不明なことを口走っていたが、奴が何を言おうと、それは俺にはどうでもいいことだった。 「どうして あなたがアルビオレ先生の名を知っているの……」 俺は、俺に そう問い質してきた瞬を睨みつけ、アルビオレ先生の無念を瞬にぶつけなければならなかったから。 でも、俺はそうすることができなかった。 なぜ俺がアルビオレ先生の名を知っているのかと俺に尋ねてきた その人が、俺の求める天使の顔をしていたから。 会いたくて会いたくてたまらなかった俺の天使が、キグナスに羽交い絞めにされた俺を 切なそうな目で見詰めていた――。 「そんな……そんな馬鹿な……」 そんなことがあるはずがない。 瞬が俺の天使だなんて、そんなこと。 アンドロメダ座の聖闘士は、卑劣で冷血な恩知らずだ。 アルビオレ先生の薫育を受けながら、その期待を裏切り、あの素晴らしい人の命を奪った悪魔だ。 その悪魔が、どうして天使の顔をしているんだ。 どうして こんな澄んだ目をしているんだ。 どうして――どうしてアルビオレ先生と同じ眼差しで、悲しそうに俺を見詰めているんだ。 そんなことが――そんなことがあっていいはずないじゃないか! |