瞬王子は、とても可愛らしい王子様でしたし、自分は人の思い遣りの心によって生かされているという考えの持ち主で、とても謙虚な少年でしたので、すぐに氷河王子のお気に入りになりました。
とはいえ、最初から何もかもがスムーズに問題なく運んだわけではなかったのですけどね。
氷河王子は、人の上に立つ者はあまり感情を表に出すべきではないという信条の持ち主でした。
ですから 冗談も真顔で言うことが多く、最初のうちは瞬王子も随分と戸惑ったのです。
けれど、二人が親しくなるにつれ、氷河王子は瞬王子に自然な表情を見せてくれるようになりました。
瞬王子が氷河王子に仕えるようになって半月が経った頃には、氷河王子は瞬王子に 君臣ではなく友人同士になろうとさえ言ってくれたのです。
あまりに嬉しくて、瞬王子は 思わず涙ぐんでしまいました。

友人として親密さを増すうちに、氷河王子が瞬王子を憎んでいることを、氷河王子の実際の言動で直接 知らされて、瞬王子は悲しい思いをすることも多かったのですけれどね。
氷の国の王妃様が亡くなって もう10年以上の年月が流れたというのに、突然お母様を失った時の氷河王子の悲しみと憎しみは全く薄れていないようでした。

「火の国の王子の評判はどんなものなんだ」
「普通……だと思いますが」
「俺のところには賛辞しか聞こえてこない。美しくて優しい心の持ち主で、まだ若いのに、親を失った子供たちを養育するための施設を作ったとか、農作物の実りが悪かった地方の者が生活に困ることのないような保障体制の構築を提案したとか」
「あ、そういうことをしたことも――」
「どれほど人のためになることをしても、奴が俺の母の命を奪った事実は消えることはない――その罪はどんなことをしても消えない」

侍従の瞬には いつもとても優しい氷河王子が、火の国の王子に言及する時だけは、夏の青空のような瞳を 凍てつく冬の海の色をした瞳に変えてしまいます。
瞬王子は、自分が生きていることの罪に涙しないわけにはいきませんでした。
「氷河王子様……」
「氷河でいい。……おまえが泣くことはあるまい」
火の国の王子に対しては、憎々しげな態度を隠そうともしない氷河王子が、ただの瞬にはとても優しいのです。
ただの瞬に対して優しい氷河王子こそが本当の氷河王子で、瞬王子を憎む氷河王子は本来の氷河王子ではないのだと思えることが、瞬王子の心に涙を運んできました。

「本当に おまえは泣き虫だな。おまえが泣くことはないだろう。同じ国の人間といっても、俺は おまえまで王子と同類だとは思わないぞ。俺が憎いのは瞬王子だけで、火の国の者全員ではない。もっとも――おまえに会うまでは国ごと憎んでいたんだがな。俺がこの国の王になったら、戦争でも仕掛けて火の国を滅ぼしてやろうと思っていたくらい……。だが、おまえに会って、考えを改めた。瞬王子が冷酷な悪魔だとしても、国民が皆 そうであるはずはないんだ」
「氷河……」
我儘でもなく、横暴でもなく、お母様を心から愛していたからこその、氷河王子の恨み、憎しみ。
そんな氷河王子が、瞬王子は悲しく、切なくてなりませんでした。
そして、どうすれば そんな氷河王子を本当に幸せにできるのかが、瞬王子にはわからなかったのです。






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