「どう思う?」
瞬の姿の消えたラウンジで、星矢が紫龍に そう尋ねたのは、その場に(幸運なことに)氷雪の聖闘士が居合わせていなかったからだった。
瞬の頻繁なアフリカ行きの訳に、実は星矢は ある程度 察しがついていたのである。
そして、星矢に察することができるようなことに、紫龍が気付いていないはずがない。
紫龍はもちろん、星矢の期待に沿う見解を 仲間の前に提示してきた。

「シベリアに帰ってばかりいた氷河が それをやめたと思ったら、今度は瞬がアフリカ行きを繰り返すようになった。二人の間に何かあったのだとしか思えんな」
期待を裏切らない仲間の答えに大いに満足し、星矢が紫龍の前で大きく頷く。
そして彼は、少々 呆れたような溜め息を一つ洩らした。
「だよなー。瞬が頻繁にアフリカに行くようになる前は、氷河がシベリアに帰ってばかりだった。氷河のシベリア行きが ぴたっと止んだ途端に これだもんな。わかりやすすぎるぜ」
「とはいえ、わかっているのは、瞬のアフリカ行きの原因が氷河だということだけだがな」
紫龍の言は歴とした事実だったのだが、星矢は彼の言葉を軽く一蹴した。

「そんだけ わかってれば十分だぜ。瞬の口を割らせるのは難しいけど、氷河の口を割らせるのは簡単だもんな」
「そうか? だんまりを決め込むと、氷河も なかなか口は堅いぞ」
「俺、瞬は殴れねーけど、氷河なら平気で殴れるんだ」
「……」
星矢はどうやら、殴ってでも氷河に事情を白状させるという不退転の決意を抱いているらしい。
果たして氷河が仲間に殴られたくらいのことで事実を白状する気になるのか、そもそも氷河は仲間に大人しく殴られてくれるのか等々、思うことは多々あったのだが、紫龍はあえて星矢の決意に水を差すようなことは言わなかった。

瞬が本当に人様の役に立てることを喜んでアフリカに行っているのなら、紫龍とて そのことで瞬に意見するつもりはなかったのである。
だが、今の瞬は、どう見ても、何らかの問題から逃げるためにアフリカ行きを繰り返している。
紫龍には そうとしか思えなかった。
だとすれば、氷河と瞬の間に起こった問題を白日の下にさらけ出し、その問題の解決のために努めるのは、瞬の仲間としての義務である。
それは瞬のためになることなのだ。
そして、もしかすると氷河のためにもなる。
となれば、多少の荒療治もやむなし。
(正しい)目的のためには手段を選んでいられない。
そういう理屈(超理論ともいう)で、紫龍は星矢の決意に異議を唱えることをしなかったのだった。






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