星矢の お遊びの測定散歩には、瞬だけでなく、氷河と紫龍もついてきた。
瞬ひとりだけでは 星矢の暴走を止められないこともあるかもしれないと、それを懸念して。
彼等が選んだ測定場所は、休日の都内 某繁華街。
自分たちの知っている人に出会うことがないようにと配慮しての選択である。
星矢は そこで、街の通りを行き交う人々の犯罪係数の測定を開始したのだが、沙織が言っていた通り、危険な測定器は 呆れるほど妥当な値をしか示さなかった。

通りを歩いている ほとんどの人間の数値が45から55。
小さな子供を連れた母親らしき 一人の女性が78という高い値を示したが、子育ての緊張とストレスゆえのものと考えれば、それも驚くような値ではなかった。
小学生で50、中学生高校生になると、身体データの数値が高くなるのか、70から80。
大人より子供の方が値が高いのは、子供たちには分別という名の諦観がないせいなのかもしれない。
たまに90前後の値を示す大人もいたが、彼等は いかにも その筋の人物と言わんばかりの風体をしていた。

一人だけ、いかにも堅気の会社員という風体をしていながら 危険値100を超える40絡みの男がいて、アテナの聖闘士たちが『いったい、この貧相で気弱そうな男がなぜ』と思い始めた側から、彼は どう考えても通りすがりの赤の他人に難癖をつけて喧嘩を始めてしまった。
自分から吹っかけた喧嘩で劣勢を極めている男を、解せないながらも庇おうとした星矢たちが間に入っていった まさにその瞬間、犯罪係数100の男は背広のポケットからジャックナイフを取り出した。
もちろん彼はあっさり星矢に取り押さえられ、速やかに近所の交番に連れていかれることになったのである。

彼は、何やら仕事上の不満が鬱積して そういう暴挙に走ったらしい。
会社の同僚に訊けば、『地味で目立たない人でしたよ』『そんなことをする人には見えなかったけど』という お決まりの答えが返ってきそうな男。
彼は まさに『人は見掛けによらない』を地でいくような男だった。
そんな男の荒ぶる心情をしっかり感知するあたり、さすがはグラードの脳科学研究所が開発したものだけあって、その性能は確かなものだと、アテナの聖闘士たちは改めて思うことになったのである。
使用方法に適切な規制さえ持たせれば、これは護身用として十分に使えるツールだと。
その“適切な規制”を設定することが、解決困難な課題であるとしても。

が。
その確かな性能を持つ機械で再度測定しても、瞬の値は相変わらず1桁。
瞬の性格を考えれば それは妥当な評価だと思いはするものの、瞬の身体能力を考えれば、やはり その値はおかしいと、星矢たちは思わざるを得なかった。
母親に手を引かれた小学校入学前の女の子でさえ30を超える数値を弾き出す様を見てしまった後では なおさら。






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