「実際のところ、どう思う?」 迷い悩める瞬が、いかにも消沈傷心した 「どう……とは?」 漠然としすぎた星矢の問い掛けの意図が掴めなかったのだろう。 紫龍は、星矢に反問してきた。 平生は、自分の言動に いかなる迷いもなく躊躇も見せない星矢が、珍しく自信がなさそうに、その思うところ――思っていたところを吐露する。 「俺、ずっと、氷河は瞬に惚れてるんだと思ってたんだけど……。か弱い小猫だと思っていたのが、実は凶暴な虎だったことがわかって、氷河の奴、騙されてたような気になったのかな……」 氷河が瞬に特別な好意を抱いていると思っていたのは、紫龍も同じだったらしい。 その件を大前提として否定せず、彼は軽く首を横に振った。 「騙されていたとは思っていないだろう。実際 瞬は氷河を騙していたわけではないんだし、ある意味、瞬が か弱い小猫だということには今も変わりがないんだからな。むしろ、これまで自分の方が強いと思い込み、得意がって偉そうに瞬を守り庇ってやってた我が身が恥ずかしくなったとか、そういうパターンの方があり得るのでは――いや、氷河が そんな普通の感性を持っているはずがないか……」 その点に関しては――氷河は、恥の感じ方、プライドの置き場所が、普通の人間とは異なる男だということに関しては――紫龍は氷河に絶対の信頼を置いていたのだろう。 決して恥を知らないわけではない。 プライドがないわけでもない。 しかし、氷河は、恥を感じるポイント、プライドをかけるポイントが、常人のそれより75度くらい角度がずれている男なのだ。 「だよなぁ。瞬は、自分がどんなに強くても、強ぶったりしないで、ちゃんと仲間を立てる奴だし……」 そのせいで毎回 ラスボスと対決させられてきた星矢としては、少々 引っかかるところがないでもない。 だが、それが、万事に控えめで 遠慮がち、でしゃばった振舞いのできない瞬の身についた習性だということが わかっているので、星矢は どうしても本腰を入れて瞬を責める気にはなれなかった。 紫龍が、星矢の言に頷く。 「おまけに、氷河がそうしたいと思っていたら、それを敏感に感じ取って、 「それを無意識にやってのけるところが、瞬のすげーところだよなー」 腹の底から感嘆してから、いったい自分は何に感心しているのだろうと、星矢は思い直したのである。 今 問題になっているのは、強くなるも弱くなるも自由自在、すべて氷河の お気に召すままに振舞える瞬の至高の芸ではなく、十二宮戦後 なぜか瞬を避けるようになった氷河の事情の方なのだ。 瞬自身には身に覚えがなく、星矢と紫龍にも心当たりがない。 となれば、その正答を知っているのは氷河当人だけということになる。 その時 ちょうど、まるで瞬が その場からいなくなるタイミングを見計らっていたかのようにラウンジに入ってきた氷河に、星矢は 渡りに船とばかりに尋ねてみた。 「おい、氷河。最近 おまえに無視されてるみたいだって言って、瞬が落ち込んでたぞ」 もし氷河が意識して瞬を避けているのなら、それは彼への詰問になり、もし氷河が特段 意識せず、たまたまそういうことになっているだけなのであれば、それは彼への忠告になる言葉だった。 少なくとも、その質問に対する氷河の答えによって、氷河が瞬を避けているのは意図的なものなのか、単なる偶然なのかは判明するだろう――と、星矢は思っていた。 だが、瞬を傷付け落ち込ませている男からは、 「そんなことはない」 という、氷河にあるまじきクールな答えが返ってきただけだったのである。 そのあまりのクール振りに、星矢の開いた口はふさがらず、紫龍もまた、その切れ長の目を大きく見開くことになった。 |