「氷河、おまえが責任を持って、瞬を介抱しろ!」
瞬を瞬の部屋のベッドに運ぶと、星矢は その足で瞬の部屋の隣りの氷河の部屋に行き、彼に命じた。
「俺にはそんなことをする義務も義理もない」
氷河からは、大体 予想通りの答えが返ってきたが、星矢は それを、
「瞬はおまえの仲間だろ!」
の一言で 撥ねつけた。
「全部、おまえのせいなんだ。おまえに素っ気なくされて、瞬は こんなことになったんだ。おまえに素っ気なくされたからって、何の不都合も不便もないんだし、放っとけばいいって、俺だって思うぜ。でも、瞬は――。……わかるだろ。俺たちには、俺たちが仲間だってことが、他のどんなことより大事な生きる力なんだ。俺たちには、他に何もない。瞬から それを奪うってことは、瞬に『死ね』って言ってるようなものなんだ。おまえ、それはクールとは言わないぞ。それは、瞬を肉体的に殺すことより残酷なことだ」
「……」

守ってくれる親はいない。
温かい家もない。
瞬はもちろん、すべての人を愛し、すべての人の幸福と安寧を願っているが、“すべての人”は瞬を愛してはくれない。
瞬を守ってはくれない。
瞬は、仲間に頼るようなことは滅多にしないが、それでも瞬が頼れるのは 彼の仲間たちだけなのだ。
瞬は“人間”というものを信じているが、もしかしたら個々の人間たちを信じてはいない。
だからこそ、誰に裏切られても 虐げられても、瞬は人間というものに絶望せず 信じることを続けていられるのだ。
瞬が心から信じることのできる個人は、おそらく アテナと、命をかけた戦いを共に戦ってきた彼の仲間たちだけ。
その仲間に避けられ疎まれることが、どれほど瞬の心を傷付け、その心を弱らせるか。
瞬と同じように、社会的には無である状態から聖闘士になった氷河に、それがわからないはずはない。
そんなことは あってはならないのだ。

氷河には氷河なりの、瞬を避ける訳というものがあるのかもしれない。
それでも氷河は 今は瞬の側にいてやるべきだと 星矢は思い、そうすることを氷河に要求した。
そんな星矢の思いがわからないほど、氷河も気持ちが捩じくれていたわけではなかったらしい。
いかにも しぶしぶといったていではあったが、彼は星矢に従って瞬の部屋に赴いた。
「看病なんて気の利いたこと、どうせ おまえにはできないんだから、ただ瞬を見てるだけでいい。瞬が意識を取り戻した時、側にいて、『大丈夫か』って訊いてやるだけでいいから」
それだけで瞬は元気になるはずだと、星矢は信じていた。
そんな星矢に何も言わないところを見ると、紫龍もおそらく。
「ちゃんと、ずっと、瞬の側にいるんだぞ!」
どこまでも不本意の表情を崩さない氷河に厳命して、星矢は紫龍と共に瞬の部屋を出たのである。
これで、少しでも瞬の気持ちが明るくなってくれることを願って。






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