「エリス様、もう諦めましょうよー」 「ほもの王子なんて、放っておくに限ります」 「そうそう。氷河王子も瞬王子も、エリス様が気にかけるほどの者じゃないんですよ。こんなところは さっさと出て、エリス様の神殿に帰りましょう」 基本的に平等主義、けれど人情味のある対応もできる瞬王子にエリスが与えられた エティオピア王宮の一室には、どこにでも自由に入り込める5人の亡霊聖闘士たちが勢揃いして、エリスに翻意を促していました。 「諦めは愚か者の結論! おまえたちには、物事を最後までやり遂げようという根性はないの !? 」 もちろん、亡霊聖闘士たちの言うことを大人しく聞き入れるようなエリスではありませんでしたけれどね。 エリスを思いとどまらせるためにやってきたというのに、 「ぐずぐずしていないで、瞬王子の様子を探っておいで! 聖人君子面している者ほど、裏では何をしているのか わかったものじゃないんだから!」 と命じられ、その命令に従わなければならない亡霊聖闘士たちの心労は、想像に難くありません。 そして、不本意極まりない仕事だというのに、『瞬王子が週に1回 必ず長い遠乗りに行くのは、国境にある夏用の離宮で氷河王子と密会するためである』という情報をきっちり仕入れてくるあたり、亡霊聖闘士たちの健気と勤勉さは見上げたもの。 にもかかわらず、亡霊聖闘士たちが苦労して入手してきた貴重な情報を聞いても、エリスは彼等に ねぎらいの言葉や感謝の言葉をかけることはしないのです。 亡霊聖闘士たちの 哀れさ報われなさは 目を覆いたくなるほどのものでした。 「氷河王子と密会 !? 何か やましいことがあるから、人目を忍んでいるのね!」 「いや、逢引というのは、普通 人目のないところでするものでしょう。普通ですよ、普通」 「いちいち、うるさいわねっ! ほんっと、役立たずばっかりなんだから!」 貴重で得難い情報を苦心して手に入れてきても、亡霊聖闘士が得られるものはエリスの不機嫌な怒声ばかり。 本当に気の毒な話です。 そんなふうに、亡霊聖闘士たちの働きで 氷河王子と瞬王子が親密な関係にあることは わかったのですが、エリスの本来の目的は、瞬王子の清らかの化けの皮を剥いで氷河王子を失望させ、世界を騒乱の巷と化すこと。 瞬王子が氷河王子を好きか嫌いか、瞬王子が氷河王子と付き合っているのか いないのかというようなことは、実はエリスの目的には あまり関係がないのです。 しかし、瞬王子は、カマをかけたり、水を向けたり、あの手この手でエリスが迫っても、一向にボロを出しませんでした。 亡霊聖闘士たちの情報収集力をもってしても、瞬王子の暗部を見付けることはできません。 エリスのいらいらは、日々募っていくばかりでした。 そうして。 エリスのいらいらが 臨界点を突破しそうになったある日。 どこまでも あくまでも優しく清らかな瞬王子の化けの皮を剥がすために、エリスが採った最終手段。 それは、『瞬王子当人に訊く』という、常人には到底 思いつけない超高難度の荒技でした。 |