星矢と紫龍は、瞬を中心とした半径10メートル圏内に氷河が入ることを決して許さず、氷河と瞬が出会うことがないように 注意深く その目を光らせていたが、氷河が求めると、瞬に関する情報は渋る様子もなく氷河に提供してくれた。
氷河の目は事実を映していないが、自分たちが語る言葉は事実だから、その行為に問題はない――というのが、彼等の考えらしい。
星矢たちの話によると、聖闘士になりたいという強い希望にもかかわらず、ある事情があって、この半年の間、瞬はその修行に入ることができずにいたらしい。
聖戦中止という、過去に例のない椿事によって、瞬は念願の修行をついに開始した――ということだった。

もっとも瞬は、幼馴染みたちと故郷の村を出て聖域にやってきた時には既に、強大な小宇宙をその心身に備えていたらしい。
そして、この半年間、肉体の鍛錬の代わりに その小宇宙を更に大きく強くするための修行は重ねていたらしく、瞬にアンドロメダ座の聖衣が与えられることは以前から決まっていたのだそうだった。

地上の平和を守りたい、人々の幸福を守りたいという気持ちが誰よりも強く、そのための努力も惜しまない瞬は、あっという間にアンドロメダの聖衣を その心身に馴染ませてしまった。
その心の清らかなこと、その優しい心根は疑うべくもなく、氷河によってもたらされた災難への同情も相まって、アテナから聖域の下働きの者たちまで、立場の上下、老若男女、人種民族を問わず、瞬は誰からも好かれているらしい。
星矢や紫龍が 氷河に瞬の近況報告をしてくれるのは、そんな幼馴染みを 彼等が誇らしく思い、自慢に思っているせいもあるようだった。
ハーデスの呪いは、まさに発動すべくして発動したのだ。
瞬は おそらく、この聖域、この地上で最も清らかな魂の持ち主だった。
――その姿の醜さにもかかわらず。






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