「そっか……。アテナが彼女のこと、普通の人間だけど普通の人間じゃないって言ってたのは、そういうことだったんだ」
ベルタは氷河のあとを追いかけていったものと思い 案じていたらしい星矢と紫龍は、一人で聖域に帰ってきた氷河から事の経緯を聞き、腑に落ちた顔になった。
同時に、これからも この世・・・で生き続けていかなければならない恋人たちのことを思い、憂い顔になる。

「瞬はさ、あのねーちゃんと同じで、自分が誰かを好きだったことだけは憶えてるみたいなんだ。その人のことを思い続けてる。もしかしたら、おまえが頑張っても、瞬は、思い出せない誰かに遠慮して、おまえを受け入れられないかもしれない」
それは あり得ないことではないだろう。
ベルタが“何かを忘れた記憶”に数百年 苦しめられていたことを思うと、氷河も 自分と瞬の前途に不安を覚えないわけにはいかなかった。
だが、アンドロメダ座の聖闘士と白鳥座の聖闘士には、ベルタとルドルフとは決定的に違う点があったのである。
それは、二人が生きているということ――アンドロメダ座の聖闘士と白鳥座の聖闘士が共に生きているということ。
そして、生きている限り希望を失わないのがアテナの聖闘士というものなのだ。

「やれるだけ やってみるさ。まあ、俺の この美貌があれば どうにかなるだろう」
憂い顔の仲間たちを、氷河は、笑えない冗談で笑わせようとした。
氷河の笑えない冗談を聞いた星矢が、その憂い顔を 呆れ顔に変える。
「あのな。そういう冗談は、不細工な男が言った時にだけ笑えるもんなんだよ」
よくない展開だけを想定し憂えてばかりいても、何にもならない。
氷河は、当たって砕ける覚悟を決めた。






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