「今日、学校がひけてから区立図書館で調べてきたんだけど、加賀大聖寺城5万石の城主・山口宗永って、確かに存在した人だったよ。関ケ原で破れて――息子が何人かいて、嫡男の修弘は、大聖寺城が落城した時に父と一緒に自害している。次男の弘定は父の遺志で城を落ち延び大坂城に入城しているんだけど、大坂夏の陣の若江の戦いで討ち死に。山口宗永の息子で名前が残っているのは、その二人だけだった。多分、その他に 身分の低い女性に生ませた子供がいて、大聖寺城落城の時に 父親や一族と共に自刃したんだと思う。そのうちの一人が僕の前世――っていうことになるのかな。氷河さんの言ってたことが本当のことなら」 「山口なんとかって、ほんとにいたのかよ!」 世界的大スターも そこいらへんのにーちゃんと同じ。 一目惚れした相手に近付くために せこい手を使って住所を探り出し、到底 信じられないような作り話を ひねり出すような真似もしでかすのだ。 そう決めつけていた星矢は、氷河の語った前世話が何の根拠もない空想・創作ではなかったという事実に驚くことになった。 山口某が実在した戦国武将だったというのなら、むしろ彼が 誰もが知っている有名人ではないがゆえに、氷河の話は信憑性を帯びてくる。 今回が初めての来日、これまで日本との関わりが取り沙汰されたことのなかった人間が 流暢に日本語を話せるという状況も、考えてみれば奇妙なことである。 少なくとも氷河は、瞬に近付くために半日で日本語をマスターしたのではないだろう。 彼の話は確かに荒唐無稽だが、辻褄が合っていないわけではないのだ。 “転生”という、実否の確認ができない要素を除きさえすれば。 「でも、何だって、今になって……。まさか、今更 山口家を滅ぼした前田家に復讐でもないだろうし、おまえと天下でも取ろうって腹なのかな」 「冗談はやめてよ、星矢。山口家って、それほど有力な大名じゃないし、まして僕は その家の後継ぎでも何でもない、言ってみれば部屋住みの厄介者だったんでしょうし」 だが、その他に、今は一介の高校生に過ぎない瞬に 世界的大スターが逡巡なく跪く、どんな理由と目的が考えられるのか。 山口家の妾腹の息子の家来だったという氷河の前世が 本当のものだったとしても、そんなことは無視して忘れてしまった方が、よほど今の彼の益になる――少なくとも、それで彼には何の支障もない――というのに。 氷河は、全く彼の得にならないことをしているのだ。 主従の忠義の心が最も軽んじられた下剋上の時代に生きていた人間としても、氷河の振舞いは奇妙なものとしか言いようがない。 結局は、事態を難しく面倒なものにしたばかりの瞬の調査結果。 星矢と瞬は、互いの顔を見詰めて 溜め息をつくことしかできなかった。 |