ジャイプルのマハラジャとの面会は、宰相との会談ほど興味深いものではなかった。
生まれた時から国の王としての地位と暮らしを保障され、その境遇を当然のこととして享受してきたマハラジャは、自分がイギリスの意のままにされる傀儡にすぎないという自覚があるのか ないのか、実に呑気で緊張感に欠けた人物で――。
豪奢な玉座――玉座といっても、インドのそれは椅子ではなく、真紅のクッションだったが――寝そべって俺に謁見したマハラジャは、彼の父祖サワイ・ジャイ・シン2世が作った大仰な天体観測装置を 相当 誇りに思っているらしく、その自慢を繰り返すばかりだった。
人は悪くないのだが、御しやすい男。
おそらく、イギリスもそう判断して、彼をマハラジャの地位に就けているんだろう。
俺は、俺の目的を果たすために、呑気なマハラジャを舞い上がらせておくのが得策と判断した。

「名を明かすことはできませんが、私が使える主人は、イギリス国王にしてインド皇帝エドワード7世陛下の覚え めでたく、イギリス海軍にも大きな影響力を持つ立場の人間です。我が主人は、貴国の天体観測機器に ひとかたならぬ関心を持ち、自身で見学したいという希望を抱いております。ですが、我が主人は気軽に本国を離れることが許されない立場にあり、それゆえ まず私に貴国の観測機器の下見をしてくるよう命じられたのです。じかに見学するだけの価値ありと 私が報告すれば、我が主人は 貴国訪問を計画することになるでしょう」
とか何とか、適当な出まかせで、俺は ジャイプルの現マハラジャと彼の父祖の遺産を持ち上げた。
俺の考えは図に当たったらしい。
宗主国イギリスの やんごとなき身分の人間が 父祖の偉業に関心を抱いているという話に気をよくしたマハラジャは、王宮への滞在と 王宮内を自由に行き来する許可を、俺に与えてくれた。






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